ベネチアビエンナーレ2013、グルジアパヴィリオン

グルジアという国について少しでも知っている日本人はどれほどいるのだろうか?しかし、ロシアに長期滞在する日本人がグルジア料理のレストランに行くと、コーカサスの小国が美食大国であることにびっくりする。特産品のワインは濃厚で香り高く、シャシュリク(香草風味の串焼き)、ヒンカリ(小龍包?)、ハチャプリ(チーズピザ?)といった料理はシンプルながら何度でも食べたくなる美味しさである。あるいは険しいコーカサス山脈や世界遺産にも指定された古いキリスト教聖堂などを思い浮かべる人もいるかもしれない。

今年グルジアは2年に一度の現代美術の祭典、ベネチアビエンナーレに初参加した。あたかも万国博覧会のように各国がビエンナーレ会場にパヴィリオンを所有し、展示を競い合う。しかしグルジアは自前のパヴィリオンを持っていない。そこでメイン会場のひとつであるかつての造船場の建物に建て増しをして木造の簡易パヴィリオンを造ってしまった。内部には工事のための道具が残され、仮設バラックのような印象を与えている。DSC00649DSC00656

このパヴィリオンは「カミカゼ・ロッジア」と名付けられた。「カミカゼ」とは語尾が「-aze」で終わるグルジア人の典型的な姓からとられた名前である。グルジアの首都トビリシでは、バルコニーを部屋や物置に改装したDIYが盛んに見られる。このようなロッジア(バルコニー)は、ソヴィエトが崩壊して街からルールや秩序が消えていった90年代に増え始めたという。トビリシのロッジアは、ソヴィエト時代の大規模な都市計画が消滅した後に生じた、日常生活を生き抜くための知恵なのである。カミカゼ・ロッジアは現代グルジアの知恵とたくましさによって生み出されたブリコラージュであるといえる。DSC00654DSC00651

グルジアパヴィリオンは複数の若手アーティストによる共同作業によって造られた。そのひとつであるブイヨン・グループ(Bouillon Group)は、キリスト教、イスラム教、ユダヤ教の礼拝のポーズを基にしたパフォーマンス「エアロピクス」を披露。彼らはこれまでにも、ソヴィエト時代に個人のアパートで密かに行われた非公式芸術活動をテーマにしたパフォーマンスを行うなど、生活と芸術、公共の空間とプライベートスペースなどを問題にした活動を行っている。

ブリヨン・グループらによるパフォーマンス「エアロビクス」 http://groupbouillon.blogspot.jp/2013/07/la-biennale-di-venezia.htmlより

ブリヨン・グループらによるパフォーマンス「エアロビクス」
http://groupbouillon.blogspot.jp/2013/07/la-biennale-di-venezia.htmlより

またグルジアパヴィリオンには、近年活躍の目覚ましいニューヨークを拠点する日本人のアーティスト、荒川医も参加している。荒川はゲラ・パタシュリ、サージ・チェレプニンとともにこれまでニューヨーク近代美術館やロンドンのテート・モダン、いわき市立美術館の「実験工房」展でパフォーマンスを披露してきた。荒川のパフォーマンスは、日本の前衛芸術の歴史に対する省察を含みながらも、音楽や詩の朗読、そして観客の参加によって一体感を生じさせ、パフォーマンスの場をクライマックスへと導く。

2012年5月京都で行われた荒川医、ゲラ・パタシュリ、サージ・チェレプニンによるパフォーマンス

2012年5月京都で行われた荒川医、ゲラ・パタシュリ、サージ・チェレプニンによるパフォーマンス

カミカゼ・ロッジアとグルジアパヴィリオンのアーティストたちは、宗教、社会問題、近代芸術の歴史といった重たいコンテクストを引き受けながらも、それを軽やかなパフォーマンスやインスタレーションへと昇華させる。彼らが生み出そうとするのは、アーティストや主催国の力量をアピールするような偉大な作品ではなく、観客が体験する心地の良い時間と空間である。

高所に設置されたカミカゼ・ロッジアには風が吹き抜け、そこからはアドリア海が一望できる。本やサンドイッチを持ち込んで長居する鑑賞者もいた。ここには他国のパヴィリオンとは明らかに異なる空気が流れていた。今回のビエンナーレで、たくましくも軽やかな新しいグルジアの姿を見た気がした。(K)

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