モスクワに住む若い夫婦との雑談(後半部)

前回の続きです。前回途中で切ってしまっていたので、前回の終わり部分も少しですが前半部のポストに書き足してあります。今回は主に政治の話です。少し情報が古いですが、このインタビューは2014年7月末に行いました。

後半

[続き]→前半はこちら

комната

ベラ:それで政治の質問は?

編集部:ウクライナとプーチンについてどう考えているか知りたいんだけど。まずいまウクライナで起こっていることに関してどう思う?

グレブ:うーーーむ

ベラ:いまから私たちがそのこと話すでしょ。その後、まずいことになるわね。笑

グレブ:これはすごく答えたくない質問だな。この質問に関して僕の考えは根本的にオフィシャルなロシアの立場とは異なっている、と答えるだけではだめかな? 僕は、ウクライナで起こっていることはロシアにとっては恥ずべきことだと思っている。

ベラ:私もグレブに賛成、この状況はこの国になにもいいことをもたらさないわ。逆に、この国は社会の醜い側面を何か見せてしまった気がするの。

グレブ:まわりでは攻撃的な言動や排他的な言動がすごく増えている

ベラ:言い争いのどちらか一方に与しているわけではなくてね。こういう状況では全員が正しくないんだわ

編集部:グレブ、君はいまウクライナで起こっていることが、ロシアにとって恥ずべき事だと思っているの?

グレブ:うん、というのもウクライナには確かにロシアの軍隊がいたと思っているからだ。実際、彼らはクリミアを占領した。さらにロシアはウクライナ南部の民兵〔親露派〕を支援している。

ベラ:私はどれも説得力があるようには思えなくて。ただ分裂が起きて無政府状態になっている場所で国民投票をするのは、すごく良くないことだと思うわ。

グレブ:あと、これに関してあらゆる大衆メディアがひどい情報戦を繰り広げている。これはとても良くないし、恥ずべき事だと思っている。これは敵が病気のときに食べ物が入った冷蔵庫を奪ってしまうような行為なんだ。

ベラ:面白いメタファーね。笑

編集部:続けて

グレブ:そして単に奪うだけでなく、壁に赤いペンキで馬鹿げたことを書くような行為だ。僕は体制が僕らの社会を人質にとっているような感覚がある。

ベラ:地理学的な観点からは、クリミアを併合することがいいことだとしてもね。

グレブ:それは偏執狂的といってもいいよ。僕はそうは思わないんだ。いまは19世紀じゃない。

ベラ:そう、問題の倫理的な側面をこれでは正当化できないの。でも体制は誰も人質にとっていない。みんな満足しているんだもの。私たちは偉大な帝国で、自分たちの土地を奪還するんだって。ウクライナはまだ西側に出て行きたいと思うだろうし。プーチンはあらゆる人間の裏を書くでしょうね。社会が考えているのはそういうことよ。ほんの一部のリベラルな人たちとグレプ、あなたを除いてね。笑

グレブ:社会がなにを考えているかは分からない。僕は社会学的な考察をしているわけでもないし、レヴァダ=センターが発表していることも信じない。

*レヴァダ=センターとはロシアの非国立の世論調査機関

編集部:ベラ、君がいう「社会」っていうのはなに? リベラルな人たちとグレプ以外の人々?

グレブ:僕も社会だ。

ベラ:そうね、ただ朝に私と一緒にメトロに乗っている人たちのことよ。彼らはコムソモリスカヤ・プラヴダを読んでいて、そこにはいま言った事が全部書かれているわ。それでも彼らはどうにか異議を唱えようなんて気を起こさない。だってあらゆる情報番組が繰り返し同じことを言っているんですもの。ウクライナは悪者で、ドンバスでは人々が殺されているって。

グレブ:ドンバスでは確かに人々が殺されている。でもそれを自問する人は少ないんだ「何故だろう?」って。

ベラ:もし他の意見が出てくるとしたら、「彼らは西側に組み込まれ、我々をむちゃくちゃにしたがっている」ってことね。

編集部:グレプ、誰がそういうことをしているの?

グレブ:ウクライナの軍隊と分離主義者たちが互いに撃ち合っていて、その弾丸が平和を望む人たちにも頻繁に当たっている。

ベラ:でもウクライナでは、分離主義者たちと彼らを助けているロシアの人間たちの残忍さが喧伝されているわ。そして、ロシアではウクライナ軍の残忍さが。

編集部:そうだね、情報が本当に錯綜していると思うよ。

ベラ:ウクライナとロシアにいる私の知人たちは死体が写った一枚の同じ写真を投稿して、相手側を非難しているわ。

グレブ:それとロシアで伝えられているのは、(ウクライナの)全員がロシアをめちゃくちゃにしたがっていて、絶えずロシアの邪魔をし、ロシア人たちを蔑視しているってことだ。

ベラ:みんな気が狂っちゃったみたい。プロパガンダは至る所にあるし。インターネット、知人、知人の親戚たち…。

グレプ:本当だよ。

編集部:君達はウクライナに関してどうやって情報を得ているの?

グレプ:Facebook、インディペンデント系のロシアと西側の出版物から。

ベラ:単にいろいろな資料を読み合わせるだけでもいい。例えば、記事を10本読んで、おおよその真実を描き出すとか。

グレプ:僕は体制側の出版物にも目を通すようにしているよ、全体像が分かるように。

ベラ:同じ事ね。

グレプ:そう、プロパガンダは至る所にある。あたかもロシアとの冷戦が全ての人にとって都合がいいかのように。プーチンは、まるで人生すべてをかけて無意識のうちに冷戦に向けて準備しているかのようだし、西側は西側で、ヨーロッパのリーダーたちは誰もプーチンのことを完全に信じきっていない。

編集部:君達が読んでいるインディペンデント系のロシアと西側の出版物を具体的に聞いてもいいかな?

グレプ:http://slon.ru/
 




http://www.forbes.ru/ 
http://www.vedomosti.ru/

http://www.economist.com/





 http://www.theguardian.com/

http://www.bbc.co.uk/









 http://ru.reuters.com/

まだ沢山あるよ。ニュースは沢山読んでいる。全部言った方がいい?

編集部:いや、十分だ。目を通してみるね。ありがとう! ところで、ロシアとウクライナは民族的にはどう違う?

グレプ:ウクライナは1991年に独立国家となりベラルーシとともにソ連から離脱した。

編集部:そうだね

グレプ:このときから、この国は自分たちの国家を構成していて、民族に関しても「ウクライナ人」と言えるようになった。ここには、ウクライナ人というのは、ロシア人と同じものではない、という意味が含まれていると言ってもいいかも知れない。

ベラ:人種的には、いずれにせよ、様々な人たちで構成されているわね

グレプ:中国人と韓国人と同じようなものだ。長いこと隣り合っているのに、まったく別の民族だ

ベラ:韓国と中国の例は適切じゃないわよ。同じ国だったことあった? それに対してキエフとモスクワの歴史は切り離せないでしょ。言うでしょ、キエフはロシアの都市たちの母だって。

グレプ:ソ連っていうのは人工的な構成体なんだ。文化的、歴史的に民族の個別性は明らかだよ

ベラ:キエフはロシアの国家体制の揺籃の地でしょ。

グレプ:ベラ、じゃあそれならモスクワ公国の時代から、13世紀から考えてみよう。13世紀初めにフセヴォロド3世の息子のヴラジーミルがモスクワ公になって、自分をキエフの権力と対置した。ロシア人とウクライナ人の道が分かれたんだ。

編集部:ロシア人は全員この歴史をちゃんと知っている?

グレプ:知っているとは思えない。笑

ベラ:学校では教わるわよ。で、それで?

グレプ:いずれにせよ、「兄弟的な民族」という確固とした概念は存在している。これは、ウクライナ人とベラルーシ人がまとめて「小ロシア人」と呼ばれていたソ連以前に存在していた概念だ。ロシア帝国にはかなり緩やかに民族政策があったんだけど、誰も決してウクライナ人とロシア人が同じ民族だと言おうとはしなかったんだ。

編集部:面白いね。例えば、もし20世紀以降の歴史を考えた時、ウクライナっていうのはまだ若い国家ってことかな

ベラ:そうね

グレプ:うーーーーむ。20世紀初頭から考えた場合、それ自体はまだ国じゃなくて、民族的な独自性を明確に保った崩壊したロシア帝国の一部だった。若い国としては1991年以降だね。ややこしくてごめん。

編集部:いや、ごめん、そうだよね。じゃあ、例えば、ある意味でウクライナが若い国だとすると、どうしてウクライナの人たちは、まさに今ヨーロッパに出て行こうとするんだと思う?

グレプ:なんて言ったら良いのかな。僕は、「ヨーロッパへの脱出」っていうのは「良い生活」に関する神話だと思うんだ。ウクライナ人たちはヨーロッパの一部になるってことをそこまでしっかりイメージできていない。でも彼らは不正所得や汚職や不安定な日常といったものと以前の「親ロシア的」な立ち位置とを強く結びつけて考えている。独立のための長らく続いた戦いと、ロシアと東ヨーロッパに挟まれた境界領域としての絶えざる状態とを考え、彼らは後者(東ヨーロッパ)の一部となり問題を解決しようと考えている。

ベラ:ちなみに、まったく同じことがクリミアにも言えるわ。概して、人々はより良い生活を探し求めているのよ。ヨーロッパかロシアか、重要なのは、快適であることよ。

編集部:たぶん、彼らにとって25年っていうのはとてつもなく長かったんだろうね。僕はグレプに賛成かな。「ヨーロッパへの脱出」これは神話だと思う。

ベラ:25年は国としてはすごく短いわよ。アイデンティティはそんなに早く形成されないわ。でもいま起きていることは若い国にとっては将来的にいいことだ








と思う。

グレプ:ベラ、そうだね、でもアイデンティティの形成っていうのは必ずしも国家ではないんだ

ベラ:ネーションとして生まれるためには、ある段階を経る必要があるのよ

グレプ:うん、そしてそれが全て血を伴って行われているのがとても残念なんだ

編集部:彼らはアイデンティティを探している。でも彼らはそれをどう成し遂げればいいか知らない。こういうこと?

グレプ:そんな感じだね。

ベラ:ロシアだって知らないし、探しているわよ。笑

グレプ:でも彼らは自分たちのアイデンティティをヨーロッパを通じて確立したいんだ。ロシアか…あぁ…

ベラ:ロシアもまた25年よ、新しいロシアとして

編集部:ウクライナの人たちはどうやって自分たちのアイデンティティを見つけることができるだろう?

ベラ:彼らには言語もあるし、人種的特性もある、歴史だってあるわ

グレプ:言語と日常生活の質が安定して持続的に成長していくことだね。











ベラ:でもロシアとの衝突は国民を団結させた、これは事実よ。言ってみれば、内部でまとまるために外部の敵を必要とする、というように。

編集部:ベラ、彼らには言語はあるけど、これはロシア語の在り方とはまたちょっと違う気がする。

ベラ:ウクライナ語はとてもきれいよ。ウクライナでは人々の一定数はロシア語も話すことができる。だから、ある言語を放棄するのは難しいし、効果的じゃないと思う。

グレプ:彼らがある条件では安定して良くなることを理解するとしたら、彼らはこれをナショナリティの枠組みで受け入れるだろうね。言語について話すのはやめよう。これは簡単な問題じゃないよ!!

編集部:ところで! 君達のアイデンティティってなに?

グレプ:アイデンティティ?

ベラ:私たちはロシア人で、私たちには神様がいる。笑

グレプ:ベラのは冗談だよ。笑 これはナショナリスティックな発言だ。僕のアイデンティティはナショナリティとは結びつかないよ

編集部:じゃあ、なにと関係があるの?

ベラ:私の場合は言語と文化的文脈と結びついている。私はロシア語を話し、ロシア語で考え、ロシア語で仕事をしている。それと私たちは小さい頃にコロボーク(ロシア民話やウクライナ民話に出て来る小さな丸いパンの登場人物)やプーシキンの物語を読んだわ。これも私のアイデンティティね。

グレプ:あのね、僕らの小学校では男の子たちの間で「お前はランクいくつ?」という問いかけが流行っていたんだ。この問いかけは刑事罰に問われた人間たちのやりとりからきている。牢屋にはいくつかのカーストがあって、これは囚人が従わなくてはならない規則の量で決まるんだ。で、これが「ランク」って呼ばれている。多くのロシア人がこれについて耳にしたことがあるし、ある程度の人々はこれがどういったものかも知っている。ロシアでは成人男性の4人に1人が牢屋に入れられたことがあるとも言うしね。

ベラ:なんでそんなイヤな話を持ち出したのよ?笑

グレプ:僕はこの話をそこまで信じていないけど、この噂は流布しているんだ。

ベラ:私は信じていない

編集部:面白いね。笑

グレプ:つまりこうだ、僕らへの質問が、「ランク」に関する質問と似ているってことだよ。自分をナショナリティとか国籍とか性別とか宗教で規定(アイデンティファイ)する限り、それはあたかも牢屋のヒエラルキーの中にいるかのようで、それを変えるってのは不可能なんだ。だから、僕のアイデンティティは、グレプ・ガヴリシという名前の人間ということで、たぶんそれが全てなんだ。

ベラ:О___о




 国籍や性別はОк。で、言語や文化はあなたをどうヒエラルキーのなかに位置づけているの?

グレプ:文化というのは絶えず変わり続けるものだよ。君は毎日なにか新しいものを読んでいる。新しい行を読むごとに自分のアイデンティティが変わっているって言う事はできない? 言語もまた変わりやすい領域だ。

ベラ:文化的コンテクストっていうのはだいたいどれも一緒よ。









多くが発展はするけど、根本は変わらないわ。

編集部:じゃあ、「伝統」はどう? これも絶えず変化している?

ベラ:伝統? ロシアでは伝統は変わったし、散発的に消滅している。唯一のコンセプトというのも残っていないし。

編集部:プーシキンは伝統じゃない?

ベラ:それは文化コンテクストね。

グレプ:プーシキンは単に良い詩人で、彼からもう100年以上も文化コンテクストが生まれ続けているっていうだけだよ。

ベラ:その文化コンテクストはもう出来上がっているわよ

グレプ:僕はそうは思わない

ベラ:私はそう思う

グレプ:つまり、もしそうなら、プーシキンを通じて自分を規定することはおかしいってことになる。

ベラ:あなたがプーシキンを子どもの頃から知っているってことは、あなたを規定している。これは文化コンテクストでしょ。

グレプ:僕はプーシキンが好きだし、例えば、松尾芭蕉も好きだ。僕にとっては芭蕉もプーシキンも等しく詩人だ。

ベラ:問題は具体的な詩人じゃなくて、一般的な話よ。

グレプ:なんで? それでどうやって僕は自分を規定するんだ? 日本人としてじゃないだろ?

ベラ:あなたが個人として育った情報体系の中で規定するの。

グレプ:情報体系というのは毎日変わり続けている。

ベラ:変わらないわ。地球だって毎日変わっている。でも毎日惑星としては同じ惑星でしょ。あれ、話が完全にずれちゃってるわ。笑

グレプ:質問が難しかった。笑 いずれにせよ、僕は自分を生物学的なものから規定しているよ。

編集部:じゃあ、質問変えるね。君達は生まれ故郷(ロシア)への愛はある?

グレプ:生まれ故郷への愛はあるよ

ベラ:私もあるわ。自分が生まれたカフカス地方にはね。でもロシアの他の地域に対しても敵対心とか何も思っていないわ。笑

グレプ:僕はウラル地方に対して愛を感じているかな。

編集部:その場合、君達が愛するロシアって一体何?

グレプ:その質問も難しいよ。笑

ベラ:概して私たちは子ども時代と結びついた場所を愛しているわね

グレプ:言うならば、自分の人生に関する追懐かな。笑

ベラ:草木が生い茂って、チョコレートのお菓子があって、っていう時代

グレプ:そうだね、場所、人々、出来事そしてそれいったことの思い出

ベラ:まぁ言ってしまえば、帝国的な偉大さっていうのは私たちにとって魅力を感じないし、私たちはクリミアが自分たちのものってことにも喜びを感じない。

編集部:それは、あるいは、「ロシア」に対しては特別な愛情はないとも言える?

ベラ:政府のやりかたを恥ずかしいとは思う。でも土地は愛しているわ。

グレプ:うーん愛情がないっていうと違うかな。たぶんいずれにせよあるよ。そうだね、土地は好きだ。これ大事。

編集部:なるほど。土地っていうのは良い答えだね。

グレプ:真実のようなものだよね。

編集部:ここまでかな。ありがとう! これで終わりです!

グレプ:ありがとう! 面白かった!

ベラ:ウラー。笑

Бэлла и Глеб, спасибо большое!!

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