ロシア演劇界タイムライン(2022年2月24日-)28ヶ月目

凡例

タイムラインはテアトル誌を踏襲し、時系列を遡る形で記している(新しい情報が上)。

訳者による割注は〔〕で記している。

戯曲、小説、上演等の作品タイトルは内容を確認できていない場合、仮置きの日本語訳を記している。

人名におけるアクセントの音引きは、基本的には表記しない。

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ロシア演劇界タイムライン(2022年2月24日-)28ヶ月目

Театр.誌原文(28ヶ月目)

(翻訳:伊藤愉)

▶︎公開:2024年10月19日18:10
▶︎更新:


2月24日、テアトル誌はウクライナ領の状況に関連するタイムラインの記録を開始した。

*Roscomnadzor(ロシア連邦通信・IT・マスメディア監督庁、Federal Service for Supervision of Communications, Information Technology and Mass Media)はロシア軍によるウクライナ各都市への砲撃やウクライナ民間人の犠牲関する情報、および進行中の作戦を攻撃・侵略・宣戦布告と呼ぶ資料は現実に即していないとみなしている。


編集部は週ごとのタイムラインを月ごとのタイムラインに切り替えることに決めた。だが、私たちは近いうちにこうしたタイムラインを公開する必要がまったくなくなることを望んでおり、それを信じている。


6月24日

22:00.
ヴァフタンゴフ劇場で、ロシア演劇人同盟と同同盟新代表ヴラジミル・マシコフの体制に引き継がれた「ゴールデン・マスク賞2024」の授賞式が行なわれた。30年の歴史のなかではじめて、演劇祭がモスクワで開催されず、審査員は旧「ゴールデン・マスク」の専門家委員会が選んだノミネート作品を観るため現地に足を運んだ。その結果、やはりコンクール史上はじめて、次の8部門で受賞作なしとなった。
「最優秀劇作家賞」、「最優秀作品賞:オペラ」、「最優秀演出家賞:オペラ」、「最優秀作品賞:コンテンポラリー・ダンス」、「最優秀指揮者賞:バレエ」、「最優秀女性役賞:バレエ」、「最優秀演出家賞:オペレッタ・ミュージカル」、「最優秀女優賞:オペレッタ・ミュージカル」。こうした決定に至った理由は明らかにされていない。また発表された受賞者の多くが、さまざまな理由で授賞式に姿をあらわさなかった。ドラマ演劇部門の審査員は、演出家セルゲイ・ジェノヴァチ(審査員長)、女優リディア・ヴェレジェヴァ、ブロヴヌ記念ドネツク劇場芸術監督ナタリヤ・ヴォルコヴァ、「第七スタジオ」事件の専門家委員として知られる演劇学者オリガ・ガラホヴァ、国立舞台芸術大学(GITIS)学長グリゴリー・ザスラフスキー、俳優のアンドレイ・メルズリキンとイーゴリ・ペトレンコ、オブラズツォフ劇場文芸部主任ニーナ・モノヴァ、劇作家アレクサンドル・プディン、ジャーナリストのマリーナ・ライキナ、「チェロヴェク〔人間〕」劇場主任演出家ヴラジミル・スクヴォルツォフ、「ヴォロネジ・コンサート・ホール」ディレクターのユーリー・スムィシニコフ、エカテリンブルグ人形劇場ディレクターのピョートル・ストラジニコフ、芸術家アナトリー・シュビン、演劇学者ヴァジム・シェルバコフである。
音楽劇部門の審査員には、アラ・シガロヴァをのぞいてバレエ、ミュージカル、コンテンポラリー・ダンスの代表者は含まれていなかった。審査員団は、ノヴォシビルスク・オペラ・バレエ劇場主任演出家のヴャチェスラフ・ストラドゥブツェフ(審査委員長)、カリーニングラード音楽劇場芸術監督エレーナ・アリフェル、指揮者のヴァレリー・ヴォロニンとアリフ・ダダシェフ、オペラ歌手エヴゲニー・アキモフ、ヴェラ・バラノヴァ、イリーナ・ドルジェンコ、エレーナ・カチュラ、オリガ・コンディナ、アリビナ・シャギムラトヴァ、声楽教師ドミトリー・ヴドヴィン、演出家イリナ・ルィチャギナ、コミ・オペラ・バレエ劇場ディレクターのドミトリー・ステパノフがいる。


6月17日

18:00.
6月24日にヴァフタンゴフ劇場で改組されたゴールデン・マスク賞の授賞式が開催される。新たな執行部が開催を見送ったフェスティバルの代わりに、主催者は旧アルバート通りでカーニバル・パレードを実施し、アート団体「タヴリーダ」と「若手演劇人コミュニティ」が参加すると演劇人同盟のサイトで述べられている。また同日には45のモスクワの劇場が門戸を解放し、エクスカーションや稽古場見学、ゲームやワークショップが企画されている。興味深いのは、本プログラムは演劇人同盟にも「ゴールデン・マスク」にも関係がないロシア文化省とモスクワ市文化局の協力のもと実施されたということである。管轄官庁は書簡の中で、管轄下にある各劇場は「同賞と演劇芸術をロシア市民に広めるため」、「ゴールデン・マスク」授賞式当日に門戸を解放するよう通達した。
これらのイベントはすべて、2005年にマリヤ・レビャキナをトップとして独立非営利団体「ゴールデン・マスク演劇祭」が運営して以降、同賞30周年に関連したものである。旧執行部との契約は2023年9月に演劇人同盟によって打ち切られ、同賞の独立性を剥奪し、報告義務を負わせる新規定案が激しい論争と演劇界からの反発を呼び起こしていた。旧「ゴールデン・マスク」専門家委員会は2022-2023年シーズンのノミネートを指名していたが、それらはすでに、ヴラジミル・マシコフとキリル・クロクの指揮のもと、演劇人同盟の新しい事務局が召集した審査員団によって評価されている。さらに、同コンクール史上はじめて上演がモスクワでは実施されず、、審査員団は現地で審査観劇を行ない、授賞式は従来の4月中旬から6月末に変更された。

15:16.
ラトヴィア国立劇場は、チュルパン・ハマトヴァとマクシム・スハノフが主演をつとめるドミトリー・クルィモフ演出作品『狂人たちの日記』の上演を中止し、ウクライナとの紛争が終結するまでロシア語での上演を延期すると発表。ポータルサイトのRus.lsmが劇場ディレクターのマリス・ヴィトリスの発言を引用して報じた。
「本決定は軍事行動勃発後にロシアを離れたプロの演劇人たちに向けられたものではまったくない……」とポータルサイトでヴィトリスの発言が引かれている。Art Forteのサイトによると、上演は別の会場で行なわれ、新たな上演場所についての情報は6月25日以降に発表されるとのこと。プロデュース会社Art Forteは、ラトヴィア国立劇場と9月中旬にドミトリー・クルィモフの上演を実施する契約を結んでいた。同作はロシア語で行なわれ、亡命中のロシア人アーティストが世界で自らの場所を見つけようとする試みに関して語られるものだった。国立劇場が同上演のために舞台を貸し出す決定をしたことで、世論の一部が怒りを表明し、その結果貸し出しが中止された。


6月14日

20:26.
マリナ・ブルスニキナが、ドネツク人民共和国アカデミー青年劇場(マケエフカ)の俳優たちとともにヴィクトル・アスタフィエフの短編を原作とする『晴れた日に』を演出。舞台美術はロシア・アカデミー青年劇場の芸術家リリヤ・バイシェヴァが担当。
同作はロシア・アカデミー青年劇場で実施された特別ワークショップで作られた。今後、ドネツク青年劇場は『晴れた日に』を、自分たちの劇場だけでなく、ロシア各都市に同作を携えてツアーを行なう予定である。
「素材の選定は偶然ではありません」とマリナ・ブルスニキナはロシア・アカデミー青年劇場のプレス・リリースで語っている。「第一に2024年はヴィクトル・アスタフィエフの生誕100年で、第二にこのあまり知られていない短編のテーマはいまたしかなアクチュアリティを持っていて、私たち全員の心を打つのです。それは、世界の素晴らしさと、互いに同意ができない人々の不完全さという時代を超えたアスタフィエフのテーマです」。
ロシア・アカデミー青年劇場がドネツクの劇場と協働するのは初めてではない。2023年春に、ロシア・アカデミー青年劇場は文化省のプロジェクト「共同舞台(Общая сцена)」に参加し、マケエフカに100点以上の舞台設備、小道具、衣装、家具を贈った。2023年4月および2024年4月には、ドネツク青年劇場がモスクワのロシア・アカデミー青年劇場の舞台で公演を行なった。また、マケエフカの劇団員を対象としたワークショップも実施された。


6月11日

9:00.
ロシア演劇人同盟と国立舞台芸術大学(GITIS)は「演劇学者・演劇批評家・演劇出版者ギルド」を創設。この「演劇に関して書いたり考えたりするすべての人々の結集を呼びかける新たな協会」を法務省に正式登録したことが演劇人同盟のサイトで発表された。この発表によると、以下に記すような「ギルドの発起人グループには、文化・芸術の代表者たちが参加している」という。国立舞台芸術大学(GITIS)学長グリゴリー・ザスラフスキー、シェプキン演劇大学学長ボリス・リュビモフ、演劇学者・演劇批評家のニーナ・シャリモヴァ、マリーナ・チマシェヴァ、オリガ・ガラホヴァ、アレクサンドル・コレスニコフ、アルチョム・ゾリン、出版者のエレナ・アレクセエヴァ、エレーナ・エリクセン。
演劇人同盟のサイトでは、「ギルドは若手演劇学者を支援し、地方部で働く若手演出家を支援し、劇場と観客の結びつきを整備し、都市部と地方部の演劇学的状況の断絶を克服する。発起人グループの意図では、若い書き手を発掘し、演劇批評や演劇学を志す彼らを支援することで、演劇研究者の新しい世代を創出する」と述べられている。また同様にギルドの課題として、「経験豊富な研究者たちによる……若手演劇学者たちの支援」、出版活動の支援、「高度な国民的演劇伝統の保存と普及を目的とした演劇出版物の促進」が挙げられている。
2015年以降、ロシアには演劇批評家連盟があり、150名以上のさまざまな都市の専門家たちをつないできた。


6月3日

14:00.
ペテルブルグの演劇フェスティバル「バルチスキー・ドム」がブロヴヌ記念ドネツク国立アカデミー音楽ドラマ劇場との協働協定を締結。ブロヴヌ記念音楽ドラマ劇場のプレス・リリースを引用してタス通信は「バルチスキー・ドム」総合ディレクターのセルゲイ・シューブの言葉を報じている。「この締結は、すでに5年以上続いてきた協働関係を継続したいという心からの願いを正式に裏付けるものです。私たちはツアー、作品演出、ワークショップ、舞台美術や小道具の貸借に関して話し合いました。これは創造的および運営上の相互交流となるでしょう」。この協定は「バルチスキー・ドム」がプーシキン生誕225年を記念して企画したフェスティバル「わたしは自分に人わざでない記念碑を建てた」で締結された。プーシキンを題材としたペテルブルグの〔カンパニーの〕作品が演目の4分の3を占めるなか、ブロヴヌ記念音楽ドラマ劇場は、三つのゲスト団体のうちの一つだった。ドネツクの〔劇場の〕『スペードの女王』のほかは、ヴラジミルから『百姓令嬢(贋百姓娘)』、モスクワから『オネーギン・ブルース』がフェスティバルに参加した。


5月30日

18:00.
ダニラ・コズロフスキーはヴィタリー・ヴォロジンに対する裁判でふたたび勝訴。2023年4月、俳優のダニラ・コズロフスキーはモスクワ市のプレスネンスキー地区裁判所に名誉、尊厳、仕事上の評判を保護するため告訴していた。
3度目の試みで受理された訴状は、法律が施行される以前に公開されたSNSへの投稿やインタビューを理由としてロシア軍の信用失墜に関する違反で同俳優を捜査するよう「保安・反腐敗」連邦プロジェクト代表ヴィタリー・ヴォロジンが検察総局に要求したことに対する、俳優サイドからの返答であった。また、ヴィタリー・ヴォロジンは、同俳優が長らくアメリカに出国していたが、現在は帰国していることを主張していた。ダニラ・コズロフスキーはオープン・レターのなかで告発すべてに明白に反駁し、裁判所に訴える意向を示していた。2023年9月、告訴が認められ、裁判所はボロジンに1ルーブルの賠償を命じた。
ボロジンはこの判決を不服として控訴した。しかし、2024年5月30日に裁判所は「判決の変更はなく、控訴は不受理」とするのが妥当とみなした。ヴィタリー・ヴォロジンは自身のテレグラム・チャンネルで次のように述べた。「ダニル・ヴァレリエヴィチ、すべての裁判が終わらないうちは、私たちにはまだ多くの裁判があるうちは、あなたは1ルーブルたりとも受け取ることはできないだろう。少し待ってくれ、まだそう考えるのは早計だ、状況は240度変わることもある。(中略)数多くの違反があれば、賃金を払わずに解雇することもできる。真実は我々の背後にある、続きを見てみようじゃないか。もしすべての判決が同じようなものになれば、もちろんルーブルを払おう。だがまだそれを考えるときではない。いまは喜んでいてくれ、悲しみは後からやってくる」。

11:50.
ジェニャ・ベルコヴィチとスヴェトラナ・ペトリイチュクの事件に関する第五回審理の前に、両名の身柄拘束延長に対する控訴審が行なわれた。2024年5月3日、審理完了にもかかわらず、ベルコヴィチとペトリイチュクの拘禁が6ヶ月間延長されていた。判事は決定を支持。
ベルコヴィチとペトリイチュクは2023年5月4日に拘束され、5月5日以降、拘置所にいる(当初両名は2ヶ月の拘束とされたが、拘禁期間はその後7回延長されている)。ロシア刑法205条2項「テロ活動実施への公的な呼びかけ、テロリズムの公的な正当化、もしくはテロリズムのプロパガンダ」で立件された。拘束の理由となったのは、ネットで急進的イスラム主義者たちと知り合い、シリアにいる彼らのところに向かう女性たちの物語であるスヴェトラナ・ペトリイチュクのドキュメンタリー的戯曲に基づいたベルコヴィチの作品『美しき鷹フィニスト』である。上演と戯曲の創作が裁かれるこの件は現代の司法執行では前例のないケースである。


5月28日

10:00.
マヤコフスキー記念ノリリスク極圏ドラマ劇場はザハル・プリレピンのテキストに基づく『義勇軍のロマンス〔Ополченский романс〕』をモスクワとニジニ・ノヴゴロドで上演する。「一幕のファンタスマゴリー」は一年前に同劇場の主任演出家アンナ・ババノヴァが演出していた。ニジニ・ノヴゴロド青年観客劇場で6月27日と28日の5回上演、モスクワでは6月30日にプーシキン劇場で2回上演が予定されている。
演出ノートでは次のように語られている。「短編集『義勇軍のロマンス』(2020年に出版されたプリレピンの書籍〈編集部注〉)を一つの物語にまとめあげたのは劇作家・演出家のミハイル・ヤロシ=バルスキーである。彼自身も潜水艦クルスク号の悲劇に関する作品『極限強度〔Предел прочности〕』、『無限記号〔Знак бесконечности〕』、『海軍将官Yへの手紙〔Письмо Адмиралу Y〕』で知られている。彼が自らに課した課題は、暴力の描写をなくし、可能なかぎり、登場人物を誰も「殺さない」ことだったため、彼らは悲劇的な2014年から、さまざまな激変を経て、2023年のロシア軍戦車縦隊での出会いまでをともに体験していく。戯曲では、ザハル・プリレピンが2014年のウクライナ・ロシア間の悲劇に関して記した社会評論『無縁の騒動ではなく〔Не чужая смута〕』で展開された議論も用いられている。これにより、書き記された出来事の状景が鮮明になり、ドンバスの義勇軍が単に致命的な危険を前にした自然発生的で本能的な反応なのではなく、国家が崩れ落ちていくときに自らの運命を主体的に決定しようとする、歴史的・文化的に条件づけられた民衆の意志であることが理解されるのだ」。


5月24日

14:00.
ヴァフタンゴフ劇場は「ロシア退役軍人」の会による文化大臣オリガ・リュビモヴァへの訴えを受け、リマス・トゥミナスを偲ぶ夕べを中止した。6月4日に予定されていた前芸術監督に関する夕べについて同劇場は5月22日に発表、同日には1000人規模のメインステージでのチケットは全て完売していた。その翌日の5月23日、z系メディアが、「ロシア退役軍人」の会代表で特別軍事作戦義勇兵のイリダル・レジャポフが署名した「リマス・トゥミナスを偲ぶ夕べだけでなく、劇場で予定されている彼の演出作品すべて」の中止を求める請願書を公開した。「ロシア退役軍人」の会のサイトにはレジャポフの言葉が掲載されている。「われわれはトゥミナスを記念する会は許しがたいと考えている。この出来事は、先ごろカナダ議会でナチストであるグニカ〔Гунька:Hunka フンカ〕を称賛したスキャンダルに匹敵する。劇場の運営陣はどうやら異なる道徳的・倫理的現実に生きているらしい」。


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