本誌URL: chemodan.jp
「これは、ロシアのことを研究している僕らが僕らの視点でロシアを語る雑誌です。ところで、ロシアとはどんな国だろう。
僕ら研究者の中には、1 年や2 年、3 年もしくはそれ以上ロシアに住んでいる人も少なからずいる。あるいは、毎年調査のために彼の地を訪れる人も多い。が、そこがどんな国かと言われると、実はよくわからない。なんだか、ころころ姿を変える。10 年前に住んでいた人と、5 年前に住んでいた人と、いま住んでいる人が話をするとあまり噛み合なかったりする。モスクワと地方部ではまったく世界が違う。
ロシアという国が、日本人にとって不可解な国だということは、各人それなりに理解している。だからこそ、自分たちがこの国で経験したことを自分のアイデンティティとして、これがロシアだと各々好き勝手に声を上げ、実に不毛なやりとりをしたりする。こういうプロセスは、ご存知のように辟易する。辟易するが、この雑誌を使って僕らもこの微妙かつ絶妙な駆け引きに参加してみることにした。
もちろん何もロシアに限った話でなく、他の国や日本に関しても、同様の状況はおこっている。だけどもしかしたら、ことロシアに関しては、こういう不毛なやりとりがあることさえ知られていないのではないだろうか。この国に対する寒い、暗い、人が冷たい、プーチンがコワい、空港が暗いというイメージで止まっているのではないだろうか(ちなみに、アエロフロートお馴染みのモスクワ・シェレメチエヴォ空港は数年前に改修工事を終え、今では暗くありません。明るくもありません)。当然、僕らが紹介するものは自分の専門に偏ったものであり、全貌ではない。むしろ、ごく狭い範囲の「ロシア」だろう。でも同時に、美術や映画、文学や演劇という広い枠組で読んでも面白いよう、話題を提供したいと思っている。そこに息づいている文化の一部を紹介することで、北の凍土で僕らと同じように生活している人々の一面を紹介したい。
ちなみに、この雑誌のタイトルである『チェマダン』は、ロシア語で「トランク」や「旅行鞄」という意味を持っている。僕らなりの偏った雑多なもの(情報)をここに詰め込み、その中身を床に思いっきり広げたいという思いを込めている。そのイメージにそって、この雑誌は、ひたすら一枚の紙として膨張し続け、この創刊準備号を含め刊行された号はこの場所に留まり続ける。旅行鞄を持って、旅に出かけるように、そして旅行の思い出が旅行鞄に刻み込まれていくように、この雑誌が読者の人々にとって不思議な旅行になってくれればとても嬉しい」(創刊準備号挨拶文より)
【ЧЕМОДАН編集部】
編集部は伊藤、河村、奈倉、八木の四人。ロシアの文化をもっと身近に感じられるよう紹介していくプロジェクト。普段はそれぞれ授業を受け持ったり、資料を渉猟したり、論文を書いたり、翻訳をしたりしている。
伊藤愉(いとうまさる|Masaru Ito)専門はロシア演劇、アヴァンギャルド演劇。部屋が狭い。
河村彩(かわむらあや|Aya Kawamura)大学で近現代美術およびロシア語を教える。専門はロシア・ソヴィエトの美術、表象文化論。
奈倉有里(なぐらゆり|Yuri Nagura)ロシア文学翻訳。詩が好きです。(2022年7月から参加)
八木君人(やぎなおと|Naoto Yagi)専門はロシア・フォルマリズム、ロシア・アヴァンギャルド、メール対応。
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