ロシア演劇界タイムライン(2022年2月24日-)第6週

凡例

タイムラインはテアトル誌を踏襲し、時系列を遡る形で記している(新しい情報が上)。

訳者による割注は〔〕で記している。

戯曲、小説、上演等の作品タイトルは内容を確認できていない場合、仮置きの日本語訳を記している。

人名におけるアクセントの音引きは、基本的には表記しない。

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ロシア演劇界タイムライン(2022年2月24日-)第6週

Театр.誌原文(第6週)

(翻訳:守山真利恵、伊藤愉)

▶︎公開:4月9日23:59
▶︎更新:4月17日16:00


2月24日、テアトル誌はウクライナ領の状況に関連するタイムラインの記録を開始した。

*Roscomnadzor(ロシア連邦通信・IT・マスメディア監督庁、Federal Service for Supervision of Communications, Information Technology and Mass Media)はロシア軍によるウクライナ各都市への砲撃やウクライナ民間人の犠牲関する情報、および進行中の作戦を攻撃・侵略・宣戦布告と呼ぶ資料は現実に即していないとみなしている。



4月6日

14.00.
現在、数十の国公立の文化施設が建物にバナーを掲示し、特別作戦を支持するアクションに参加している。そうした劇場には、とくに、ヴォロネジ国立オペラ・バレエ劇場、コリツォフ記念ヴォロネジ国立ドラマ劇場、ロモノソフ記念アルハンゲリスク・ドラマ劇場、トムスキー・ドラマ劇場、カチャロフ記念カザン・ボリショイ・ドラマ劇場、サマラ・オペラ・バレエ劇場がある。これ以前にナウム・オレロフ記念チェリャビンスク・ドラマ劇場とホヴォロストフスキー記念クラスノヤルスク国立オペラ・バレエ劇場が劇場ファサードにZの文字を掲げた事が明らかになっている。

10.00.
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団はオデッサ・アカデミー・オペラ劇場での出演を取りやめ。楽団のウェブサイトで発表された。5月1日のコンサートは、同楽団の140周年を記念するものだった。会場はラトヴィアのリエパーヤにあるコンサートホール「ボリショイ・ヤンタリ〔大きな琥珀〕」に変更された。


4月5日

18.00.
劇作家のアーシャ・ヴォロシナは、ナウム・オルロフ記念チェリャビンスク・ドラマ劇場に対し、劇場ファサードにZの断幕が設置されたことを理由に、彼女の名前を『外套』(ゴーゴリ原作、演出家はデニス・フスニヤロフ)のポスターから削除するよう自身のSNS投稿で要求した。


4月4日

18.00.
モスクワのロシア現代史博物館で、企画展『NATO、非道の年代誌』が、4月24日まで北大西洋条約機構(North Atlantic Treaty Organization, NATO)の発足記念日に合わせて開催される。これは同博物館内で唯一の無料展である。(現在、館内では5つの展示が行われており、それぞれのチケット価格は150〜500ルーブル)
博物館のウェブサイトでは催事について次のように記されている。「本展は、NATO加盟国の平和的なレトリックと同機構による実際の政策の非道的内容との矛盾に焦点を当てたものです。これらの矛盾は20世紀半ばから今日に至るまでの世界各地の軍事衝突に現れています。特に注目すべきはウクライナでの特別軍事作戦に関する展示区画にあるロシア国防省から提供されたトロフィーです」
企画展ではロシア現代史博物館所蔵品のほか、ロシア連邦中央軍事博物館、ロシア歴史協会、歴史的公園協会「ロシアーーわが歴史」、TASS通信社、「ロシア・トゥデイ」〔ニュース局RT〕の資料、写真、工芸品が展示される。

13.28.
ホヴォロストフスキー記念クラスノヤルスク国立オペラ・バレエ劇場が、ファサードにZの文字の形で巨大な断幕を設置。公開されたビデオコメントで劇場ディレクターのスヴェトラナ・グジーは、Zを「信念と希望の堂々たる象徴」であるとし、特に、「ここ数日、ロシア全国で多くの文化施設のファサードにZの文字が掲げられています。この文字には「勝利のために〔Zа победу〕」という意図が隠されているのです。〈中略〉私たち文化従事者は、わが国の大統領の立場とロシア軍の行動を支持することを表明しているのです」と述べた。
先日には、同様の断幕がモスクワのオレグ・タバコフ劇場(在スハレフスカヤ広場)に劇場芸術監督のヴラジミル・マシコフの主導で掲げられている。
https://vk.com/video-89881522_456239764

3.06.
連邦議会経済政策委員会の委員長アンドレイ・クテポフは、契約者が非友好国の人間だった場合、映画、アニメの作中音楽の著作権料の支払いを一時停止することを提案。この発案は、ロシアの映画館の支援プロジェクトの一部であり、このプロジェクトでは制裁期間および国外映画の上映中止期間中の家賃と光熱費の支払いを免除することも予定されている。


4月3日

23.24.
南ドイツ新聞〔Süddeutsche Zeitung〕は、ロシア人振付家のイーゴリ・ゼレンスキーが2016年から就いていたバイエルン国立バレエ団芸術監督の職を、4月4日(日)を以て退任すると報せる。同紙はゼレンスキーの発言を引用し、「バレエ団の指揮とは両立できない、私の全神経と時間を必要とする」家族および個人の事情により致し方のないものであったと伝えた。

22.49.
ロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵のエドガー・ドガの絵画『ロシアの踊り子たち』が『ウクライナの踊り子たち』に改名された。改名の主唱者となったのは、彼女自身のSNSによれば、ウクライナ人アーティストのマリアム・ナイエムである。彼女はドガのパステル画『ロシアの踊り子たち』(1899)を所蔵する世界の主要美術館に依頼した。

19.00.
ローザンヌの国際バレエコンクールはワガノワ記念ロシアバレエアカデミーの生徒の参加を受け入れない。
学長のニコライ・ツィスカリゼに宛てられたコンクールの公式文書には次のように書かれている。「遺憾ながら、ローザンヌ賞はロシア政府と公的な関係を維持する機関との関係を当面停止することを決定しました。これはワガノワ・バレエ・アカデミーに直接関係することです。政治的と関係がない限り、以前のようにあらゆる国籍の若いダンサーたちを私たちの予選、セミナー、そしてコンクールに招待します。アーティストたちもまた、紛争の犠牲者です。平和が勝利することを、強く願っています」。

14.32.
マリウポリでリトアニア人のドキュメンタリー映画監督、マンタス・クヴェダラヴィチュスが亡くなった。彼の同業者で、先日終了させられたArtdocfest映画祭主催者の映画監督ヴィタリー・マンスキーがSNSで公表した。映画『バルザフ』と『マリウポリス』の作者であるマンタス・クヴェダラヴィチュスはベルリン国際映画祭に二度参加し、彼の劇映画デビュー作である『パルテノン』はヴェネツィア国際映画祭で上映された。45歳だった。


4月2日

19.34.
本日、4月2日にボリショイ劇場でバレエ『スパルタクス』がロシア文化省発案の「オープン・カーテン」というアクションの幕開けとして上演された。同企画の目的は「軍を支援し、ドンバスからの避難民を支援しているロシアの観客のサポート」である。「オープン・カーテン」プロジェクトでは、ロシアの劇場(一覧はまだ発表されていない)が若手、ボランティア、ベテラン組織のメンバーや子供の多い家庭、またドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国の住民のために作品を上演する。ロシアのボリショイ劇場はこのアクションの一環として、4月にドネツク、ルガンスク、そしてウクライナからの避難民たちを『ドン・キホーテ』に招待する。これについて、劇場総裁ヴラジミル・ウリンは報道陣にコメント。TASS通信によると、ボリショイ劇場は「バレエ『スパルタクス』の収入はウクライナでの特別作戦の犠牲者家族に寄付」される。


4月1日

23.30.
〔国際芸術祭〕オランダ・フェスティバル2022が、2022年6月のアムステルダムにおけるジュリアン・ローズフェルトのインスタレーション作品《Euphoria》の中止を公表。このマルチジャンル・プロジェクトのワールドプレミア公演はオランダ・フェスティバルの75周年記念プログラムの一つだった。ベルリン在住のローズフェルトは近年、キエフのウクライナ人撮影チームと共にプロジェクトを手がけていた。
以下のように発表された。「現在の深刻な悲劇的状況は、プロジェクトの継続を許しませんでした。インスタレーション作品は膨大な準備が必要で、6月までには間に合いません。ウクライナでの出来事の少し前に撮影は中断されました。2023年のオランダ・フェスティバルで《Euphoria》の発表を目指します」。
《Euphoria》は現代社会における抑えがたい消費についてのマルチジャンル・プロジェクトである。当初の構想では、アムステルダムの中央市場を1時間半歩き回り、ビデオ・インスタレーションの要素を取り入れたパフォーマンスを行なうものだった。プロジェクトは17日間にわたって連日上演される予定だった。《Euphoria》には、俳優、ダンサー、150名から成るブルックリン青年合唱団、国際的に有名なジャズドラマー(テリ・リン・キャリントン、スティーヴ・ガッドも含まれていた)からなる国際パフォーマーチームが参加していた。
オランダ・フェスティバル2022は6月3日から26日にかけてアムステルダムで開催され、9本の世界初演作品と10本のオランダ初演作品を含む100本以上の作品が上演される。

18.30. 
〔リトアニア人女優の〕インガボルガ・ダプクナイテがロシアを離れた。この決断について同女優はリトアニアのテレビ番組LRT.ltのインタビューで述べた。

16.30.
下院議長のヴャチェスラフ・ヴォロジンは、ウクライナにおけるロシアの行動を批判した、公的資金が用いられている文化、保健等の分野における各組織の責任者らの退任を要求。国会では各大臣がその責任を持つ、と彼は述べた。
「国会はこの問題を取り下げない。国家、ひいては国民の福祉を担い、それを裏切った者たちは、文化・教育・保健など分野の公的機関における責任者という職務からたち去るべきだ」と、ヴォロジンは自身のテレグラムチャンネルで述べた。

13.00.
Artdocfest映画祭のディレクターが、3月31日から4月7日にモスクワで行なわれる予定だったフェスティバルの中止について発言。3月31日、映画監督で映画祭Artdocfest主催者のヴィタリー・マンスキーは、オクチャブリ映画館の付近で開会式前に何者かに赤い塗料をかけられた。これより前、映画館では、地雷を設置したとの電話を受けて、避難勧告が出されていた。このような理由で、Artdocfest映画祭のオープニングは妨害された。
メッセージでは次のように述べられている。「今年、プログラムからは現実の問題に関する映画は実質的にすべて外されました。映画祭のトレーラーや印刷物までも検閲されました。つまりは、オープニングの日までにフェスティバルの全てのプログラムがまるごと検閲されたという訳です。このように、フェスティバルはオープニングを迎える前に破壊されました。そして3月31日にはオープニングの開催がいずれにせよ妨害されたのです。
いまとなっては、フェスティバルの中止が建物の爆破予告の結果なのか、映画界への体制の圧力の結果なのかは重要ではありません。ロシアで生じていることの総体によって、フェスティバルは破壊されたのです。この間の出来事で、私たちがロシアでArtdocfest映画祭を守るために受け入れた条件は無意味だったと確信しました」。

12.30. 
レオニド・ロベルマン〔下記作品プロデューサー〕は本誌に、3月25日から27日のモスクワ博物館におけるドミトリー・クルィモフ演出『ボリス』を中止したことについてコメント。
「モスクワ博物館での上演が〔今後〕あるかどうかわかりませんが、他会場では、私たちが決めさえすれば、必ず実施されます。モスクワ博物館は3月の公演をたしかに中止し、会場を別のイベントに使うことにしたのです。あそこは国家機関であり、誰かに従属しています。会場が決まり次第、公演を行います」。

11.00.
2013年にロシア国籍を取得したフランス人俳優、ジェラール・ドパルデューがウクライナでの軍事行動を非難。同俳優はAFP通信に対し、パリで行われる3日間のイベントの収入を全てウクライナ人被害者救済の基金に寄付すると発言した。

00.30. 
メトロポリタン歌劇場は今後アンナ・ネトレプコとは協働しない。これについて、劇場ディレクターのピーター・ゲルブはニューヨーク・タイムズのインタビューに対して次のように述べている。「私たちは立場を変えるつもりはありません。アンナがプーチンと長期的に完全に距離をおいたことを示せば、話し合うことができるでしょう」。


3月31日

21.30.
映画監督で、映画祭Artdocfestの主催者であるヴィタリー・マンスキーが、オクチャブリ映画館の近くで開会式前に何者かに赤い塗料をかけられる。ロシア通信社(RIA)ノーヴォスチによれば、これ以前に映画館では避難勧告が出されていた。このように、Artdocfest映画祭のオープニングは妨害された。

19.00. 
ディズニーは、4月7日からロシアの全ての映画館での作品貸出を停止する。映画配給者会報〔Бюллетень Кинопрокатчиков, БК〕が、これに関して独自の情報源をもとに報じている。БКはまた、映画館チェーン「カロ」ではロシア人のビデオブロガー〔Youtubeなどで映像を作り公開している人、Vlogger〕による映像の上映を始めた。4月4日にはアレクサンドル・グドコフとガリク・ハルラモフによるバラエティーショー「チキンカレーの地下室」のプレミア上映が行われる。さらに、来場者たちは春にはロシアの映画館で『ブーマー』と『ブーマー2』(監督ピョートル・ブスロフ、それぞれ2003年、2006年に公開。〔大人気を博したロシアのギャング映画〕)を見ることができる。

18.45.
ゴールデン・マスク賞の審査員は、ドミトリー・ベリャヌシキン演出、イヴァン・ヴェリカノフ指揮の『フィガロの結婚』の審査のため、プーシキン記念ニジニ・ノヴゴロド・オペラ・バレエ劇場に特別派遣された。イヴァン・ヴェリカノフは、彼の公での発言を理由にモスクワのノーヴァヤ・オペラ劇場でのゴールデン・マスク賞の出演を拒否されている。

18.30.
ノヴォシビルスク・バレエ・オペラ国立劇場が6月2日に予定されていたアンナ・ネトレプコのコンサートをキャンセル。劇場のサイトは、これに関して次のように公表。
「昨日、同アーティストは我が国の政府の行為を批判する声明を公開しました。ヨーロッパに住み、ヨーロッパの舞台に出演することは、彼女にとって祖国の運命よりも大事だということです。いまは、より快適な生活のために信念を放棄して良い時ではありません。いまは選択をすべき時なのです」。

16.30.
4月に開催予定だった国際学芸文学市(ярмарка интеллектуальной литературы)『non/fictio№24』が2022年12月に持ち越された。
〔本の見本市の〕公式のメッセージでは「現在、紙不足、印刷所への補充品や消耗品、印刷期間の増大、物流、金利や融資利率の問題、その他の組織的な問題により、製本工業全体が深刻な困難に直面しています。同様に、国外作家たちの本の版権取下げに関する問題も、多くのロシア人出版者や彼らの国外の同僚たちが春の国際学芸文学市『non/fictio№24』への参加を断念しなければならなかった原因となりました」。15.00.
ロシア人オペラ歌手、アンナ・ネトレプコがウクライナ領におけるロシアの行動への非難を表明。
弁護士のクリスティアン・シェルツを通じて水曜日に伝えられたその声明によると、ネトレプコは「このこと(特別作戦ーーテアトル誌補足)による犠牲者とその家族に関する彼女の考え」を伝えている。同時に彼女自身は「政党のメンバー」でも、「ロシアの指導者の誰かと結びついた」人間でもなく、現職のロシア国家の長であるウラジミル・プーチンとは「人生で数回しかあったことがない」と言明している。この声明は彼女のSNSに英語で公開された。


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