凡例
タイムラインはテアトル誌を踏襲し、時系列を遡る形で記している(新しい情報が上)。
訳者による割注は〔〕で記している。
戯曲、小説、上演等の作品タイトルは内容を確認できていない場合、仮置きの日本語訳を記している。
人名におけるアクセントの音引きは、基本的には表記しない。
ロシア演劇界タイムライン(2022年2月24日-)第5週
Театр.誌原文(第5週)
(翻訳:守山真利恵、伊藤愉)
▶︎公開:4月3日14:50
▶︎更新:4月5日20:59
2月24日、テアトル誌はウクライナ領の状況に関連するタイムラインの記録を開始した。
*Roscomnadzor(ロシア連邦通信・IT・マスメディア監督庁、Federal Service for Supervision of Communications, Information Technology and Mass Media)はロシア軍によるウクライナ各都市への砲撃やウクライナ民間人の犠牲関する情報、および進行中の作戦を攻撃・侵略・宣戦布告と呼ぶ資料は現実に即していないとみなしている。
3月30日
20.00.
演出家のキリル・セレブレンニコフはロシアでの罪科が取り下げられた後、パリへと移動。フランス人映画学者ジョエル・シャプロンが自身のSNSでこれを報せた。
「今日、3月29日に私がバスティーユ広場で撮った写真です」と彼は自身のページに書き、セレブレンニコフのTシャツに「テレビの電源は切っている」と書かれたTシャツを着たセレブレンニコフ の写真を添えて投稿した。
17.40.
文化創造大統領基金は「自身の愛国心と国への忠誠」ゆえに制裁を加えられた文化関係者の支援に10億ルーブルを支出。ロシア連邦大統領府副長官のセルゲイ・キリエンコが記者団に述べた。これらの資金は「ロシアの文化的アイデンティティおよび伝統的な精神的道徳の価値と結びついた文化プロジェクト支援のため」に使われる、と彼は述べた(タス通信)。分配の申請は4月から5月に検討されている。
17.00.
チュルパン・ハマトヴァはソブレメンニク劇場との労働関係を自ら希望して打ち切った。これについて同劇場ディレクターのタチヤナ・バラノヴァがロシア通信社(RIA)に語った。
現在、チュルパン・ハマトヴァはソブレメンニク劇場において『朝晩』(「彼女」役、演出はヴラジミル・ヴァルナヴァ)と『敵、ある愛の物語』(マーシャ役、演出はエヴゲニー・アリエ)に出演している。
これ以前、チュルパン・ハマトヴァはエカテリナ・ゴルデエヴァからのインタビューで国を離れ、ラトビアに出たと語っていた。3月21日にはラトヴィア人演出家アルヴィス・ヘルマニスが彼が主宰する新リガ劇場で演じるよう声をかけている。
3月29日
15.30.
モスクワのオレグ・タバコフ劇場の屋舎に、巨大なZの文字を掲げることが決定される。設置の様子を撮影した動画をジャーナリストのロマン・スペルがSNSに投稿。後に〔同劇場〕芸術監督のヴラジミル・マシコフは国営放送で、Zの設置について説明した。「本日、私たちの劇場の屋舎に、母国、わが軍、大統領、ナチストやバンデロフツィ〔ウクライナ民族主義の一つバンデラ主義者を指す〕なき子どもたちの生活を支持するため、このシンボルを掲げた」。マシコフは特別作戦の参加者たちに「私たちはあなたがた〔の帰り〕を待ち望んでいます。あなたたちを本当に誇りに思います」とも述べた。
https://vk.com/video-164944669_456239711 (設置映像、本誌VKから)
14.24.
トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団の団員たちが、同オーケストラの音楽監督、主席指揮者だったトゥガン・ソヒエフを支持する声明を発表。3月頭、トゥールーズ市はソヒエフに、ロシアがウクライナで行っている軍事作戦に対する自身の立ち位置を、公に明らかにするように求めた。この要求への応答で、トゥガン・ソヒエフはフランスの音楽家・ロシアの音楽家の狭間でこの選択をすることはできないため、モスクワのボリショイ劇場音楽監督と首席指揮者およびトゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団音楽監督を辞任することに決めたと述べた。
13:45.
パリ郊外のアルフォールヴィルにあるThetre Studioでアントン・チェーホフのテキストを題材にしたマラソン上演が行われている。3か月間にわたって、劇場ではロシアの文豪の作品15本が上演される。このフェスティバルは、フランスで40年以上チェーホフを上演し続けているフランス人演出家、俳優のクリスチャン ・ベネデッティが企画した。
3月28日
11.30.
演出家のセルゲイ・レヴィツキーが「勤務調査を行なうため」、東シベリア文化国立大学の職を一時的に離任させられた。
学長のエレナ・ペロヴァが署名した指示書によると、調査の理由は「SNS上でのロシア連邦に対する彼のネガティブな発言」だった。
「今日、授業がある予定だったので大学にいった。人事課に呼び出され、このような〔投稿には画像添付あり〕文書に署名をするよう言われた。長いこと写真を撮らせてもらえなかった。要は、この調査が終わるまでの給与補償もなく離任させられたということだ。学生の元へ行き、このことを話すと、彼らは泣いた。学科長が来て、学生たちにこれは一時的な離任であることを告げつつも、私に仕事への感謝を述べ、それが別れの挨拶となった」とレヴィツキーは自身のSNSページでそのときの状況を伝えている。
なお、セルゲイ・レヴィツキーは3月22日にブリヤート共和国文化大臣から、ベストゥジェフ記念ロシア国立ドラマ劇場(在ウラン・ウデ)の芸術監督を解任されている。
3月27日
20:00.
世界演劇デーを記念して、ベルリンのドイツ劇場(Deutsches Theater)がウクライナのための特別アクションを実施。パヴェル・アリエ、アナスタシヤ・コソディ、エヴゲニヤ・ベラルセツらウクライナ作家の作品のリーディング公演や、キエフの劇団Pro English Theatreの作品『新世界秩序』(ハロルド・ピンター)の映像上演、マリナ・シュバルト、サシャ・ヂャリシェンコ、タチヤナ・ナドリンスカヤなどのアーティストが参加するコンサートなどがプログラムにはいっている。
3月26日
17:00.
バーデン=バーデン南西ドイツ放送交響楽団とテオドール・クルレンツィスは、3月27日にはじまる春のヨーロッパツアーを前に共同声明を発表。
楽団の公式サイトの声明では、ロシアとウクライナへの停戦呼びかけとして、ウクライナ・ドイツ・ロシアに関連するプログラムが瞬く間に合意されたと述べられている。当初予定されていたマルコ・ニコディエヴィチとヨハン・ブラームスの楽曲の代わりに、オレクサンドル・シェチンスキー、ヨルグ・ヴィトマン、ドミトリー・ショスタコヴィチの楽曲が演奏される。
テオドール・クルレンツィスとオーケストラの楽団運営部は、彼らの音楽的協働は共通の価値と信念の上に成り立っていることを確認した。「指揮者とバーデン=バーデン南西ドイツ放送交響楽団の音楽家たちは、平和への共通の呼びかけをはっきりと支持します。楽団は首席指揮者にこれ以上の声明やロシアでの芸術活動の拒否を期待していません」
また、バーデン=バーデン南西ドイツ放送交響楽団ディレクターのカイ・グニフケは次のように述べている。「私たちは、〈中略〉自らの家を失い、生きることに不安を抱いている人々との連帯を表明します。しかし私たちはロシアで生活し、働いている芸術家たちを一律に非難すること、彼らとの協力を機械的に断ち切ることはできません」
テオドール・クルレンツィスが指揮するバーデン=バーデン南西ドイツ放送交響楽団のコンサートは、3月27日にケルン、3月29日にバルセロナ、3月30日にマドリード、4月1日にドルトムント、4月2日にハンブルク、4月4日にウィーン、4月6日にフライブルク、4月7日と8日にシュトゥットガルトで公演予定。
3月25日
20:30.
大統領賞芸術・文化部門受賞者らとの会合でヴラジミル・プーチンがマリインスキー劇場とボリショイ劇場の一括管理の構想に関して発言。
大統領によると、革命前までロシアにあった帝室劇場管理局がこうした提携の例になる。彼はまた、マリインスキー劇場とボリショイ劇場の統合はまだ最終的な決定ではないと述べた。
ヴァレリー・ゲルギエフはウクライナの軍事行動に対する国外の反応が最初に向けられた人物の一人である。2月25日にニューヨークのカーネギー・ホールはコンサートへのゲルギエフの出演を拒否。3月1日にヴァレリー・ゲルギエフはミュンヘン ・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者と芸術監督を解任されている。
13:00.
ベルギー王立劇場(モネ劇場)はロシア作品の拒否をしないと告知。ハンガリー人演出家ダヴィッド・マルトン演出のチャイコフスキー『スペードの女王』のプレミア上演で幕をあける次シーズンのプログラムは変更しない。また上演予定には、チャイコフスキー『エヴゲニー・オネーギン』、ショスタコヴィチ『鼻』も含まれている。劇場ディレクターのペーター・ドゥ・カルウェによれば「私たちは芸術に従事するためにここにいるのです。ロシア作品のレパートリーを禁止することはできないし、つくり続け、上演し続けなければならない」。
3月24日
21:00.
夏の芸術祭「アクセス・ポイント」がSNSで中止を通知。
15:20.
コミ・ペルミャツキ劇場(クディムカル、ペルミ州)の俳優で、テレビドラマシリーズ「テリトリア」で知られるクセニヤ・オチノヴァが3月24日朝に警察に拘束され、現地時間の17時(モスクワ時間の15時)に釈放された。劇場は夜のリハーサルで彼女に会えることを願っている、と発表。ペルミのマスメディアによると、前日、同劇場主任演出家のユリヤ・べリャエヴァもロシア軍の信用失墜の罪で拘束された。彼女はリハーサル中に連行され、最初は地方分署で、その後ペルミ州署で取り調べを受けた。数時間の尋問後、ベリャエヴァは解放され、劇場に戻された。演出家が拘束された理由はVKontacte〔ロシアのSNSサービス〕の個人ページへの投稿だった。
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