ミハイル・マチューシン / Михаил Матюшин / Mikhail Matiushin(1861-1934)

「ロシア・アヴァンギャルド」にもある種の世代論が通用する(と思う)。いわゆる「アヴァンギャルド」といわれるときに想起されやすい、キレッキレの感じの視覚芸術作品を作ったのは1890年代生まれ。そのお兄さん・お姉さんくらいの年代の人の基本的態度が「創造」にあるとしたら、90年代生まれのみんなの原理はその「操作」にあるといっていい(のかな?)。
で、今回紹介するマチューシン。このマチューシンは、お兄さん・お姉さんたちよりも更にもっと上の世代になる。何せ、もともと宮廷付きオーケストラでバイオリンを弾いていた(1913年まで)というんだから、「アヴァンギャルド」とは程遠いじゃないですか。バイオリンを弾く一方、彼は絵も勉強していて、1900年にはおふらんす(パリ)に行き、新しい芸術の流れを吸収してくる。
その後、はじまりのアヴァンギャルドを代表する、ブルリューク兄弟やカメンスキイ、フレーブニコフやマレーヴィチとつるむようになるのだが、そこは年上というべきか、嫁さんのグロー(彼女もすごい詩人であり、絵も描く)と共にペテルブルクでグループ「青年同盟」を組織し、展覧会を盛んに催す一方、出版業も起ち上げ、未来派詩人たちの最初の論集である『裁判官の罠[裁判官の飼育場]』や、(当時フランスで出た)グレーズ/メッツァンジェ『キュビズムについて』の翻訳を出版した。そして、立体未来派の記念碑的オペラ《太陽の征服》(1913)では音楽を担当する。
で、マチューシンの作品なんだけれども、ここにもやはり「アヴァンギャルド」とは異なる、少し古い芸術感覚が残っている。かなりの理論家でもあり、さまざまな実験を行った彼の作品を包括的に規定することはできないが、彼は終生、科学的分析を通じた感覚の研究を進め、「オーガニック文化」(とカタカナで書くと間抜けだが)を標榜した。ここで言う「オーガニック」とは、具体的には色彩、音、そして触覚との相互浸透の中で有機的に世界を捉え、作品に反映させていく姿勢といっていい。そのとき彼に大きな影響を与えたのは、神秘思想家ウスペンスキイの著作であり、そこにロバチェフスキイの非ユークリッド幾何学、ミンコフスキイの四次元多様体、アインシュタインの相対論などが加わり(要するにめちゃくちゃなんだけど豊か)、彼は、四次元や高次現実を直観=感覚することを射程に入れた、創作・研究を重ねていくことになる。

《空間内の運動》(1917-1919)

《空間内の運動》(1917-1919)

《色彩的=音楽的コンストラクション》(1918)

《色彩的=音楽的コンストラクション》(1918)

《干草の山》(1922)

《干草の山》(1922)

《ガーグラ、海岸》(1909)

《ガーグラ、海岸》(1909)

音=色彩のタブロー(1926) *赤と青だけじゃない。他の色もある。

音=色彩のタブロー(1926)
*赤と青だけじゃない。他の色もある。

音=色彩のタブロー(1926) *赤と青だけじゃない。他の色もある。

音=色彩のタブロー(1926)
*赤と青だけじゃない。他の色もある。

作品ではない。音と色彩の相互作用を研究したもの。(1923-1930)

作品ではない。音と色彩の相互作用を研究したもの。(1923-1930)

《超物体》(1923)四次元空間のキューブ。回転する。

《超物体》(1923)四次元空間のキューブ。回転する。

木の根っこを用いた彫刻(1920年代はじめ)

木の根っこを用いた彫刻(1920年代はじめ)

名称未設定12

《原始人と踊り子》(1913)

《原始人と踊り子》(1913)


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