ロシア演劇界タイムライン(2022年2月24日-)18ヶ月目

凡例

タイムラインはテアトル誌を踏襲し、時系列を遡る形で記している(新しい情報が上)。

訳者による割注は〔〕で記している。

戯曲、小説、上演等の作品タイトルは内容を確認できていない場合、仮置きの日本語訳を記している。

人名におけるアクセントの音引きは、基本的には表記しない。

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ロシア演劇界タイムライン(2022年2月24日-)18ヶ月目

Театр.誌原文(18ヶ月目)

(翻訳:伊藤愉)

▶︎公開:2023年11月3日21:39
▶︎更新:


2月24日、テアトル誌はウクライナ領の状況に関連するタイムラインの記録を開始した。

*Roscomnadzor(ロシア連邦通信・IT・マスメディア監督庁、Federal Service for Supervision of Communications, Information Technology and Mass Media)はロシア軍によるウクライナ各都市への砲撃やウクライナ民間人の犠牲関する情報、および進行中の作戦を攻撃・侵略・宣戦布告と呼ぶ資料は現実に即していないとみなしている。


編集部は週ごとのタイムラインを月ごとのタイムラインに切り替えることに決めた。だが、私たちは近いうちにこうしたタイムラインを公開する必要がまったくなくなることを望んでおり、それを信じている。


8月25日

14:00.
ウチマ村のロシア農村運命博物館で8月26日に予定されていたテアトル・ドクの作品『祖国を守らない150の理由』の上演が中止に。「5人の女優が夕暮れどきにボートにのり、屋外でビザンチン帝国の首都陥落と変革の時代を生き延びるための7つの戦略について物語る」とイベントの告知文には書かれていた。しかし上演の前日に会場側がSNSで理由の説明なく上演の中止を発表した。
この少し前に、10年前の2013年に上演され、2021年にヴァルヴァラ・ファエルによって再演されたコンスタンティノープルの陥落を描いたテアトル・ドク創設者であるエレーナ・グレミナの同作品に対して、いくつかの愛国的なテレグラム・チャンネルが言及していた。彼らは、作品の中では歴史についてではなく現代について言葉が語られていると主張した。「統一ロシア」党の国家院議員で、かつて演劇批評家だったエレーナ・ヤンポリスカヤは、この投稿にコメントをしながら次のように疑問を投げかけている「地元の刺繍タオル、農具、揺り籠を集めた〔だけの〕ものを博物館と呼んでいいのでしょうか?」。この翌日の8月25日に、作品の上演は中止となった。「祖国と喧嘩をしない150の理由ははっきり理解されている」と同議員はSNSに投稿した。


8月17日 

16:00.
10月16日に予定されていたプラハでのアンナ・ネトレプコのコンサートが政治的理由により中止に。主催者のNachtigall Artists Management社のSNSで発表された内容によると、コンサートが実施される予定だったパブリック・ハウスの理事会が三日間にわたって開かれた後、「プラハの政治家たちのネガティヴな態度や感情的に緊迫した雰囲気」を考慮した結果、中止の判断がなされたとのことである。主催者側は、こうした判断を誰一人として支持していないが、「極めて芸術的な企画が社会的・政治的論争の対象になる」状況により受け入れざるをえなかった、と強調している。
これ以前にもすでに、シュトゥットガルトやフランクフルトなど、ヨーロッパでのネトレプコのコンサートは中止されたり延期されたりしている。これは、ウクライナでの状況に関して同歌手の「曖昧な」立場によるもの。彼女はまたメトロポリタン・オペラとバイエルン国立歌劇場での出演も拒否されていた。


8月12日

15:16.
ユーリー・ブトゥーソフはノルウェーでイプセンの初期の戯曲に基づいた作品を創作する。Forbes Talkでのインタビューでこの件を語った。「ノルウェーで仕事ができるような展望があります。これはある程度確信を持って話せることです。上演場所はトロンヘイムで、ほとんど読まれることのない、たぶん実際には誰も読んだことのないイプセンの初期戯曲の一つを使う予定です。『王位簒奪者』という戯曲です。そのため、いま私はこの仕事(編集部注:『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』)」と並行して準備をしているんです。これはとても面白い話で、戯曲にはなにかアルカイックなところがあり、同時に突如として、いままさに極めてアクチュアルなんだという感覚が呼び起こされたりもするんです。タイトルからもなにが言えるか想像がつくでしょう」。
9月16、17、19日にヴィリニュス・オールド・シアター(旧リトアニア・ロシア・ドラマ劇場)でユーリー・ブトゥーソフ演出、トム・ストッパード作『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』が初演をむかえる。


8月7日

18:28.
セルゲイ・ガルマシがルナチャルスキー記念セヴァストポリ・アカデミー・ロシア・ドラマ劇場に出演。同俳優は自作の文学・音楽プログラム『そして人生、涙、愛!』を上演した。同作はパウストフスキーの「テレグラム」とクプリーンの「ガンブリヌス」という二つの短編小説が、ドネツク・フィルハーモニーとルガンスク・フィルハーモニーの演奏者が参加する弦楽四重奏の伴奏で読み上げられた。このチャリティ上演に観客として訪れたのは、軍人とその家族たちだった。同文学・音楽プログラムはすでにルガンスク、マリウポリ近郊のマングシ村、そしてモスクワで上演されており、8月11日にはシンフェロポリで上演される。


7月31日

14:34.
本日7月31日、モスクワ市裁判所で、演出家ジェーニャ・ベルコヴィチと劇作家スヴェトラナ・ペトリイチュクの勾留を2023年9月10日まで延長したモスクワのハモヴニチェスキー裁判所の判決に対する控訴審が行なわれた。モスクワ市裁判所判事のセルゲイ・アルチョモフはハモヴニチェスキー裁判所の判決に変更を加えることはなかった。
ベルコヴィチの弁護士であるクセニヤ・カルピンスカヤは、専門家として関わる破壊学者ロマン・シランチエフの犯罪についての申し立てを裁判に追加するよう求めた。同弁護士によれば、シランチエフは民族間、宗教間の不和を排外主義的とりわけ反ユダヤ的発言によって煽っているという。カルピンスカヤはまた、ジェーニャ・ベルコヴィチの逮捕の日数計算が6日間だというのは完全に誤っていると強調した。さらに同弁護士は、ハモヴニチェスキー裁判所で審理が行なわれて以降の1ヶ月間、予審判事が実際的な行動をなに一つ起こさず、裁判資料を一枚も提出せず、同裁判に関わる証言者たちが誰一人として取り調べられなかったことに注意を促した。予審判事はベルコヴィチの責任能力のチェックと戯曲『美しき鷹フィニスト』の新たな鑑定を行なう予定であった。クセニヤ・カルピンスカヤは、弁護側はジェーニャ・ベルコヴィチの保釈を申請したが、裁判所は理由の説明なくこの申請を却下したと指摘した。同弁護士はまた、ジェーニャ・ベルコヴィチには二人の子どもがいて、心理学者によれば、母親が帰宅することが彼らには何よりも必要だということも合わせて言及している。
スヴェトラナ・ペトリイチュクの弁護士のセルゲイ・バダムシンは、本裁判が唯一「破壊学的鑑定」にのみ基づいていることを指摘した。彼はまた、彼女の逮捕に関して根拠がないとして、被弁護人の保釈を求めること(これは審理の議事録の誤り)はしていないと述べた。
モスクワ市裁判所のセルゲイ・アルチョモフ判事は、シランチエフの犯罪についての申し立てを裁判に加えること、ジェーニャ・ベルコヴィチの心理学的所見は拒否することを決定したと述べた。
5月4日にベルコヴィチとペトリイチュクは拘束された。刑法205条2項「テロ活動実施への公的な呼びかけ、テロリズムの公的な正当化、もしくはテロリズムのプロパガンダ」での立件。5月5日、ベルコヴィチとペトリイチュクの身柄拘束処分に関しての審理が行なわれ、両者は2ヶ月間、7月4日までの勾留となった。5月12日、ベルコヴィチとペトリイチュクは自身の逮捕に関して控訴した。5月30日、モスクワ市裁判所で控訴審が開かれる。身柄拘束処分の変更はなし。6月30日、再び身柄拘束に関する審理が行われ、ベルコヴィチとペトリイチュクは留置所に9月10日まで収容となった。
拘束の理由となったのは、ネットで急進的イスラム主義者たちと知り合い、シリアにいる彼らのところに向かう女性たちの物語であるスヴェトラナ・ペトリイチュクのドキュメンタリー的戯曲に基づいたベルコヴィチの作品『美しき鷹フィニスト』である。『美しき鷹フィニスト』は2020年に初演され、ゴールデン・マスク賞2020で最優秀衣装デザイン賞と最優秀劇作家賞を授賞している。


7月28日

21:50.
トゥーラ青年観客劇場で、従軍記者ドミトリー・ステシンのルポルタージュとザハール・プリレーピンの散文作品に基づく『死はなく』が上演。演出家アレクサンドル・ボリソフの演出による初演は7月28日だった。
当初、同作品は、アレクサンドル・ボリソフが2022年2月21日に芸術監督に任命されたチャイコフスキー・ドラマ・コメディ劇場で上演されるはずだった。しかし、彼の着任に伴い、数多くの俳優やスタッフが劇場を去った。その後まもなくしてボリソフも新しいポストを首になった。
現代の戦争の散文を演出するという同演出家の企画を受け入れたのがトゥーラ青年観客劇場(ディレクターはオレグ・ミハイロフ、芸術監督はヴラジミル・シンカリョフ)だった。劇場サイトの同演目のページでは次のように述べられている。「観客は78年前にタイムスリップし、ドイツの砲兵に「粉々に壊滅させられた」ザルチエ村にいき、恐れ知らずのサニ爺さん、口のきけない少女ヨロチカ、用心深い売り子のマルファ、将来を夢見るアコーディオン奏者リョハらの生きるための戦いの目撃者となる。そして、タイムスリップの手段を使って、大祖国戦争から現在、いまのウクライナの状況へと観客たちは「導かれ」ていく」。


7月26日

21:50.
国家院文化委員会代表のエレーナ・ヤンポリスカヤは自身のテレグラム・チャンネルで、ペルミ〔・アカデミー〕・テアトル=テアトル〔劇場〕でヨシフ・ライヘリガウズ演出の『ロミオとジュリエット』が上演されないことを発表した。予定されていた初演に関しては、これ以前モスクワ・コムソモレツ紙が現代戯曲学院の前芸術監督〔ヨシフ・ライヘリガウズ〕自身のコメントを引用しながら伝えていた。
「ここ最近、私はさまざまな場面でしつこく問い合わせてきました。今日、ペルミでライヘリガウズの作品は上演されない、という返事がきました」とヤンポリスカヤの投稿では書かれている。これ以前の7月18日、ヤンポリスカヤは次のようにも書いていた。「ペルミ地方の文化大臣А. В. プラトノヴァと話をした。ごく短く。「契約はなされていませんが、話し合いは行なわれています」、「私たちは演出家の以前の発言と行動に関する情報を確認しています」と」。


7月27日

17:55.
演劇人同盟でゴールデン・マスク賞の新しい体制に関して協議されていることが確認された。一連のノミネートはなくなり、演劇人同盟によって選出される専門家会議および審査委員会のメンバーは、文化省が承認し、専門家会議の決定後であってもロングリストとショートリストに修正を加えられる特権をもつ同賞のトップは演劇人同盟の代表が担うことになる。
詳細はリンク先に。



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