【世界初公開】メイエルホリド演出『査察官』音源

メイエルホリド演出のゴーゴリ作『査察官』*(1926年初演)の音源をお届けします。
2014年1月26日公開のChemodan本誌03号に掲載された「声と蝋」(ヴァレリー・ゾロトゥイヒン/Valery Zolotukhin)では、ロシア演劇の音源史が論じられています。今回ブログにアップした貴重な音源は、ロシア国立文学博物館収蔵の音源のひとつです。Chemodan編集部は、ゾロトゥイヒン氏の協力を得て、メイエルホリド劇場の伝説的な芝居『査察官』の一部をチェマダンブログで公開する許可を得ました。公の場では世界初の公開となるこの音源には、メイエルホリドの妻ジナイダ・ライフの声が録音されています。彼女の声は、唯一この音源にのみ残されています。
ライフが演じる市長夫人アンナ・アンドレエヴナと名優エラスト・ガーリン演じるフレスタコフのやりとりをお聞きください。
*これまで『検察官』と訳されていた作品

場面は『査察官』第三幕第六場、首都ペテルブルグからの査察官と勘違いされたフレスタコフ(ガーリン)のもとに、市長がその妻と娘を紹介しにやってくる。都会から来たフレスタコフに挨拶をする市長夫人アンナ・アンドレエヴナ(ライフ)。
メイエルホリドは芝居を演出する際、その戯曲、作品にまつわる様々な資料を丹念に調べ、それらを組み合わせて演出する傾向があった。この『査察官』も、戯曲の決定稿ただ一つを用いるのではなく、作者ゴーゴリの残した草稿を調べつつ、彼の他の作品からの引用も組み合わせて芝居全体のテキストを作り上げた。ここで録音されているのは、基本的に同じ場面。前半は『査察官』のゴーゴリの草稿から、後半は決定稿から採られたものだ。

(c)Государственный Литературный Музей (The State Literary Museum)

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【音源のテキスト】
Да, признаюсь, как выехал, я заметил ощутительную перемену. Даже вам, может, несколько странно, — в воздухе этак в городах…Всё как-то говорит: „Да это не то“. Например, общества какого-нибудь, бала великолепного, где была бы музыка…
(ПЕРВАЯ ЧЕРНОВАЯ РЕДАКЦИЯ; <ЯВЛЕНИЕ 6-е, ДЕЙСТВИЕ III.>)
そうですとも、出発してすぐに、明らかな違いに気づいたことを認めざるを得んでしょうな。あなたももしかしたらそういった違和感を街には感じるでしょう……。何かこう、あらゆるものが「そうだ、これは違うものだ」と言っているような。例えばですよ、見当たらんのですよ社交界といったものが、壮麗な舞踏会が、そこでは鳴り響くんです音楽、そう音楽が……
(草稿第三幕第六場)

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Хлестаков. Возле вас стоять уже есть счастие; впрочем, если вы так уже непременно хотите, я сяду. Как я счастлив, что наконец сижу возле вас.
フレスタコフ あなたの傍らに立っていられることがすでに幸せです。とはいえ、ぜひともとおっしゃるなら、座らせていただきましょう。ようやくあなたの側に座ることができ、なんと幸せなことか。

Анна Андреевна. Помилуйте, я никак не смею принять на свой счет… Я думаю, вам после столицы вояжировка показалась очень неприятною.
アンナ・アンドレエヴナ まぁ、ごめんください。そんなんじゃありませんわ……。都からいらしたとあっては、旅はさぞかし不快なことでしょう。

Хлестаков. Чрезвычайно неприятна. Привыкши жить, comprenez vous, в свете и вдруг очутиться в дороге: грязные трактиры, мрак невежества. Везде такая чепуха. Если б, признаюсь, не такой случай, который меня… (посматривает на Анну Андреевну и рисуется перед ней) так вознаградил за всё…
(основная редакция. <ЯВЛЕНИЕ 6-е, ДЕЙСТВИЕ III.>)
フレスタコフ まったく実に不愉快です。社交界に慣れていたのに、comprenez vous(お分かりでしょう)、不意に旅の中ですから。汚らしい宿、無学な人々。どこもかしこもそんな調子です。もしこうしたことがなければ……つまりわたしに……(アンナ・アンドレエヴナの方を見てもったいぶる)すっかり埋め合わせとなるようなことがなければ……
(第三幕第六場)
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チェマダン03号「声と蝋」紹介文より
古い演劇を研究していると、作品そのものを観ることができないという壁にぶちあたる。過去の演劇を論じることは、どこまで可能なのか。それでも論じなければならない僕らは、あらゆる記録を手がかりにする。劇場跡地の足場の組み方、当時の塗料、科学史と照明の関係、僕らが知りたい芝居そのものはもう残っていないから、少ない手がかりから、どうにかこうにか力技にでも舞台をもう一度現代によみがえらせようとする。そういう意味では、なにを手がかりとするか、はとても重要だ。
例えば、ここに寄稿してくれたヴァレリー・ゾロトゥイヒン氏は、音源を手がかりに100年ほど前の演劇を読み解こうとしている。これらの音源は記事の中で彼自身が書いているように、貴重であり、そして今日までほとんど振り向かれなかった資料だ。およそ100年前に録音された俳優たちの声は、演じることを職業とする者の響きを備え、かつて録音するシリンダーの前に彼らが立っていたことを確かに感じさせてくれる。声は空気の震えであり、長い年月を経て、僕らはその震えを再び捉える。
20世紀初頭は、俳優の身体と感情の表現に対して演劇史に類をみないほど意識した時代だった。その身体と感情の結節点となったのが声だった。僕らが耳にするその声は、もしかしたら実際の芝居を観るよりも、雄弁に時代を語ってくれるかもしれない。
こうした音源史を紐解くゾロトゥイヒン氏の協力を得て、チェマダン編集部は、ロシア国立文学博物館収蔵の音源のひとつ、メイエルホリド劇場の伝説的な芝居『査察官』の一部をチェマダンブログ(chemodan.jp/blog)で公開する許可を得た。メイエルホリドの妻ジナイダ・ライフの唯一残された声の記録と名優エラスト・ガーリンの名人芸をぜひ聴き逃さないでもらいたい。(編集部)

こちらも参照してください→メイエルホリド音源

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