凡例
タイムラインはテアトル誌を踏襲し、時系列を遡る形で記している(新しい情報が上)。
訳者による割注は〔〕で記している。
戯曲、小説、上演等の作品タイトルは内容を確認できていない場合、仮置きの日本語訳を記している。
人名におけるアクセントの音引きは、基本的には表記しない。
ロシア演劇界タイムライン(2022年2月24日-)第3週
Театр.誌原文(第3週)
(翻訳:守山真利恵、伊藤愉)
▶︎公開:3月25日18:10
▶︎更新:3月26日00:52、3月27日12:03
2月24日、テアトル誌はウクライナ領の状況に関連するタイムラインの記録を開始した。
*Roscomnadzor(ロシア連邦通信・IT・マスメディア監督庁、Federal Service for Supervision of Communications, Information Technology and Mass Media)はロシア軍によるウクライナ各都市への砲撃やウクライナ民間人の犠牲関する情報、および進行中の作戦を攻撃・侵略・宣戦布告と呼ぶ資料は現実に即していないとみなしている。
3月16日
19:39.
プリマ・バレリーナのオリガ・スミルノヴァが、オランダ国立バレエ団(Dutch National Ballet)に加入するためボリショイ劇場バレエ団を脱退。
14.53.
ウクライナ情勢を受け、ベルリン国際映画祭の主催者らはロシア政府を支持しているロシアの組織、代表団、人物らを映画祭のプログラムから除外する。一方で、同映画祭はその発足理念に基づき、文化作品全てに対するボイコットには反対を表明している。これに関しては、映画祭の公式声明に述べられている。
3月15日
22.00.
ゴールデン・マスク賞でいくつかの上演が中止に。フヴォロストフスキー記念クラスノヤスルク国立バレエ・オペラ劇場が4月に予定していた2作品の上演は自身の劇場で行われるが、モスクワでは上演されない。「残念なことですが、この数週間にクラスノヤルスク-モスクワ間の航空券と貨物輸送の価格が大幅に上がりました。この値上げにより、フヴォロストフスキー記念クラスノヤスルク国立バレエ・オペラ劇場の4月頭のツアーは不可能となってしまいました。〈中略〉クラスノヤルスクには演劇祭の審査員が派遣されます」と演劇祭のSNSで公式アナウンス。セルゲイ・ボブロフ演出のオペラ『ボガティリ〔勇士たち〕』はゴールデン・マスク賞で6部門にノミネート予定、またバレエ『レニングラード・シンフォニー(Lamento/ラクリモーサ)』(演出セルゲイ・ボブロフ、振付オレシャ・アルドニナ/ナタリヤ・ボブロヴァ)は3部門にノミネートされている。
その他、ペテルブルクからも2作品の上演が中止に。演出家ピョートル・シェレシェフスキーとマルィシツキー小劇場によるアシャ・ヴォロシナヤ作『牢獄のデンマーク』(5部門でノミネート)と、コンクールの枠外で上演されるはずだったアナトリー・プラウジン演出『ドネツク 第二広場』(ツェフ劇場と「バルチスキー・ドム」フェスティバル劇場実験舞台の共同作品)をモスクワの観客は見ることができない。〔『ドネツク第二広場』を含めた〕ドキュメンタリー三部作の残りの作品『オデュッセイヤ』とゴールデン・マスク賞で4部門にノミネートされた『ガス・セクター』はスケジュール通りに上演される。
18.00.
ロシア下院で「文化の意義と価値:社会的関心、専門家の意見、国家の役割」というテーマで文化委員会拡大会議が行なわれた。ドミトリー・ペフツォフ、デニス・マイダノフ、エレナ・ヤムポリスカヤ、アレクサンドル・ショロホフなどが出席。会議参加者の意見によれば、ロシアには「意義と価値の輸入代替化」(ヤムポリスカヤ)が必須であり、これは「より熱心に、より積極的に取り組まれるべき」(ペフツォフ)である。大統領参事官のヴラジミル・トルストイは「自国の文化において西部戦線〔第二次世界大戦の枢軸国側からは東部戦線〕を繰り広げる必要はない」、「大統領には方針があり、我々は大統領のチームとして、彼の方針を支える」とコメントしている。トルストイに続き、ショロポフは「国の安全に関しての問題が生じた場合には、検閲に関する課題は速やかかつ簡潔に解決される」と説明した。文化副大臣のアーラ・マニロヴァはロシア映画産業への追加予算と支援を約束し、2030年までの映画業界発展の構想もできていると述べた。
3月14日
20.09.
イタリアで、ロシア文化の孤立に反対する請願が行なわれる。
TASS通信によれば、オンライン請願の発起人であるイタリアの活動家たちは、ウクライナにおける特殊作戦開始後、イタリアでは「多くのロシア文化の学者や代表者たちの解雇が生じた」と指摘している。現時点で、change.orgの請願に集まった署名は19,000を超える。
請願書には次のように述べられている。「私たちの懸念は、ある民族、とりわけ文化的に重要な人物たちへの差別などが、長期的に取り返しのつかない結果をもたらしてしまうということです。民族の人間性を否定することは、歴史的に専制主義的政体を形作り、しばしば制御できない暴力をもたらしてきたプロセスです」。
17.30.
パノフ記念アルハンゲリスク青年劇場は、自身が主催者である「ヨーロッパの春」国際舞台芸術祭の開催を、2023年まで延期決定を発表。「今は演劇祭を行なう時機ではない」ため。
11.15.
ウクライナの演出家アンドリー・ジョルダクはインターネット・メディアGordonのインタビューで、ロシアで演出した演劇作品・オペラ作品のクレジットから自身の名を削除すると表明。また彼は「全ての文化的世界」は、ロシアの文化関係者たちと協働してはならないと意見を述べている。
3月13日
15.30.
ボリショイ劇場で、匿名の爆破予告があったことを受け、点検がおこなわれた。
「予告は12時頃に来ました。全ての建物内の点検が終わりましたので、上演の中止はありません」とボリショイ劇場広報部はテアトル誌に語った。
現在、本館ではバレエ『バヤデール』、新館では『サルタン王の物語』、小舞台では『ファルスタッフ、または3つのいたずら』が上演されている。
8.45.
イギリス・オーケストラ協会(Association of British Orchestras)は政治情勢の緊迫化によるレパートリーに変更は加えないとする声明を発表。英国のオーケストラは、引き続きロシア人作曲家の作品を演奏し続ける。
声明の中で同協会は、ロシアの作品は歴史的な音楽的規範の一部であるため、「全面的なボイコット」は支持できないと語った。
イギリス・オーケストラ協会には、イングリッシュ・ナショナル・オペラやロイヤル・オペラ・ハウスを含む、国内のアカデミー団体の大部分が参加している。
3月12日
19.35.
劇作家のイヴァン・ヴィルィパエフが著作権料を「ウクライナを支援する基金」に寄付すると発表した後、多数の劇場が近日中の同作家の上演を中止。上演演目からヴィルィパエフの作品を消した劇場には、ネイションズ劇場、ボリショイ・ドラマ劇場、ヴォロネジ小劇場、ノヴォシビルスクの「グローブス」劇場、そしてヴィクトル・ルィジャコフ演出『Line of the sun』を上演に小屋貸ししていたモスクワ・プーシキン劇場がある。
09.00.
ロシア文化省はイタリア側から中断された、ロシア・イタリア美術館交流年の復活を期待していると発表。
イタリア文化省は3月9日に、2021年10月にミラノで始まった美術館交流年に関連する全ての催事を取りやめるよう指示を発布。交流年の多様なプログラムでは、60以上のイベントが企画されており、特にドストエフスキー生誕200周年を記念したイタリアでの展覧会などが含まれていた。
一方で、ローマのMaxxi(イタリア国立21世紀美術館)では、140点のウクライナの現代作家たちの作品が展示される「ウクライナ:Short Stories」が始まった。イタリアの報道によれば、この収入はユニセフと赤十字社に渡される。
それに対し〔ロシア側からは〕、ロシア通信(RIA)によると、国立エルミタージュ美術館は展覧会用に貸し出した絵画25点を3月末までに返却するよう、ミラノの2つの美術館に要求しているという。
3月11日
21.45.
ペルミ国立オペラ・バレエ劇場から外国人アーティスト3名が脱退。プリンシパルのマルコ・ゴンザガ(ブラジル)、ソリストのラスムス・アルグレン(フィンランド)、コールドバレエの香川智音(日本)。これについて劇場広報部は、アーティストらの脱退については認めつつも、コメントは控えたとTASS通信が報じている。
20.52.
4月の頭に予定されていたヴァフタンゴフ劇場のイスラエルツアーは、チケットが完売しているにも関わらず、組織側によって中止される。TASS通信が同劇場ディレクターのキリル・クロクの発言を引用し、この決定は「地政学的状況」が原因であると伝えた。ヴァフタンゴフ劇場は、4月6日と7日にテルアヒブでリマス・トゥミナス演出の『戦争と平和』を上演するはずだった。これ以前、ラトビアとエストニアへの同劇場のツアー公演キャンセルが発表されている。
20.00.
モスクワ市文化局は、管轄下の各劇場にFacebookとInstagramのページを削除するよう指示を発した。
19.00.
ヤラスラヴリのフョードル・ヴォルコフ記念劇場がイヴァン・ヴィルィパエフの戯曲『Line of the sun』の上演を中止すると発表。彼の戯曲が上演されているロシアの各劇場に宛てられた同劇作家の書簡が理由としている。書簡においてイヴァン・ヴィルィパエフは「ウクライナを支援する基金」に作家報酬を寄付すると述べていた。劇場側は劇作家の姿勢への不同意を示し、劇作家が「一面的な政治的態度を押し付け、観客は自身の意思と関係なく何らかのアクションに巻き込まれた」と指摘している。
18.00.
ゴールデン・マスク賞でミュージカル『ミス・サイゴン』の上演が中止。演出家はコーネリアス・バルトゥス(Cornelius Baltus)。「残念ながら、サンクトペテルブルク・ミュージカル・コメディ劇場『ミス・サイゴン』はゴールデン・マスク賞演劇祭でモスクワにはいきません。作品はモスクワでも、ペテルブルクでもこの先の数ヶ月は上演されません」と、演劇祭のSNSで告知された。サンクトペテルブルク・ミュージカル・コメディ劇場はこの中止を、出演者の一名が参加不可能となったためだと認めている。4つの部門にノミネート(「最優秀作品賞」、「照明デザイン賞」、「最優秀女優賞」、「最優秀男優賞」)されていたミュージカル『ミス・サイゴン』は、ノミネート外だったグリゴリー・ディチャトコフスキー演出『マイ・フェア・レディ』に変更される。中止されたクロード=ミシェル・シェーンベルク作曲の『ミス・サイゴン』はブロードウェイの正統派ミュージカルで、戦時下で繰り広げられる、アメリカ人兵士とベトナム人女性の愛の悲劇である。
15.30.
ウェールズの首都カーディフで、チャイコフスキーの音楽がプログラムに含まれていたコンサートが中止。カーディフ交響管弦楽団は交響曲第2番(《小ロシア》)と序曲《1812年》を演奏する予定だった。
「カーディフ交響管弦楽団はセント・デーヴィス・ホールの同意を得て、序曲《1812年》を含む事前に公表されていたプログラムは現在演奏するには適当ではないと判断しました。管弦楽団は、聴衆の方々のご賛同と、改定後のプログラムを楽しんでいただけることを望みます」と管弦楽団のウェブサイトに掲載。
14.30.
ヴァレリー・ゲルギエフが不参加となったミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートで、ロシア人作曲家たちの音楽が演奏される。3月17日、18日、20日のコンサートにはゲルギエフの代わりに、指揮者のマンフリート・ホーネックとアンドリス・ネルソンスが出演。同管弦楽団はプロコフィエフの交響曲第5番とラフマリノフのピアノ協奏曲第3番を演奏した。現時点では、誰がゲルギエフ氏の代わりにミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団を常任で率いるかについては不明。
13.30.
ニュースサイトColta.ruがRoscomnadzor〔ロシア連邦通信・IT・マスメディア監督庁〕から、サイトがブロックされうると警告される。
9.50.
ロシア文化省は、国外との協働を中断しない。「ロシア文化省は、諸外国との協働の制限を管轄組織に発布していない」と文化省広報部は述べた。
9.00.
ヨナス・カウフマン〔ドイツ・オペラ歌手〕が制裁下のロシア人アーティストたちの境遇を危惧。同オペラ歌手は、ロシアの文化を滅ぼしてはならないと考えている。Corriere della Sera誌のインタビューでカウフマンは「彼らを非難する前に、彼らの立場になる」べきだと述べた。
3月10日
14.10.
TRワルシャワ劇場の『3STRS』〔原作チェーホフ「三人姉妹」〕の製作チームは、演出家のリュック・パーセヴァル氏と共に、ウクライナの人々との結束の意味を込めてチェーホフの原作テキストに変更を加えることを決定。ヒロインたちはモスクワの代わりにキエフを「素晴らしい生活の象徴」として想起する、と劇場のサイトに掲載。TRワルシャワ劇場は、自身の劇場とクラクフのスターリー・シアターの舞台で、新しいバージョンで公演する。
11.55.
モスクワのブリュソフ通りにあるメイエルホリドの家博物館が閉鎖。3月2日に館長のナタリヤ・マケロヴァは理由説明なしに解任されていた。同博物館はバフルーシン記念演劇博物館の支部で、バフルーシン記念演劇博物館のウェブサイトおよびSNSに閉鎖の情報は掲載されていない。
テアトル誌がメイエルホリドの家博物館の閉鎖について質問したところ、バフルーシン記念博物館のプレス担当は以下のように回答した。「閉鎖はちょっとした理由によるものです。近いうちに開館できることを願っています」。3月2日には、マケロヴァ氏と共に、もう一つのバフルーシン記念博物館支部であるシェプキンの家博物館館長ナタリヤ・ピヴォヴァロヴァも解雇されている。
9.48.
イギリスでE.サパエフ記念マリースキー国立オペラ・バレエ劇場〔ロシア連邦マリ=エル共和国〕のツアー公演が中断される。全46回公演中6公演のみ上演された。これについて共和国文化大臣のコンスタンチン・イヴァノフが発表した。マリースキー劇場のオペラ団とオーケストラはこれ以前にイギリス各都市でのツアーに出発していた。コンサートは4月14日まで行われる予定だった。
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