ロシア演劇界タイムライン(2022年2月24日-)5ヶ月目

凡例

タイムラインはテアトル誌を踏襲し、時系列を遡る形で記している(新しい情報が上)。

訳者による割注は〔〕で記している。

戯曲、小説、上演等の作品タイトルは内容を確認できていない場合、仮置きの日本語訳を記している。

人名におけるアクセントの音引きは、基本的には表記しない。

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ロシア演劇界タイムライン(2022年2月24日-)5ヶ月目

Театр.誌原文(5ヶ月目)

(翻訳:伊藤愉)

▶︎公開:7月27日20:25
▶︎更新:8月14日00:15


2月24日、テアトル誌はウクライナ領の状況に関連するタイムラインの記録を開始した。

*Roscomnadzor(ロシア連邦通信・IT・マスメディア監督庁、Federal Service for Supervision of Communications, Information Technology and Mass Media)はロシア軍によるウクライナ各都市への砲撃やウクライナ民間人の犠牲関する情報、および進行中の作戦を攻撃・侵略・宣戦布告と呼ぶ資料は現実に即していないとみなしている。


編集部は週ごとのタイムラインを月ごとのタイムラインに切り替えることに決めた。だが、私たちは近いうちにこうしたタイムラインを公開する必要がまったくなくなることを望んでおり、それを信じている。


7月19日

15.55.
7月20日にはEUの第7次〔対露〕制裁パッケージが採択される見込みである。EUObserverによれば、その内容は、ロシアの金の輸入禁止、プロパガンダ行為を非難されている二人の俳優、ヴラジミル・マシコフとセルゲイ・べズルコフを含む個人47名のブラックリスト化などである。この情報がロシアのメディアで報道さるとれ、マシコフは制裁の見通しについて、「どのような制裁であれ、クリエイティブな人々に影響を与えることはできない」とタス通信にコメントした。彼はまたレールモントフ(「別れのときに悲しみはない」)を引きながら、「このような尊敬すべき人々や金と同じリストに入れて光栄です」と答え、近いうちにドネツクにいく予定だと述べている。

15.10.
タス通信によると、キエフのレーシャ・ウクラインカ記念ロシア・ドラマ・ナショナル・アカデミー劇場が公式に名称を変更する。改称の法的手続きは7月15日に完了し、以前の形から「ロシア・ドラマ」の文言が削除された。新しい名称はレーシャ・ウクラインカ記念ナショナル・アカデミー・ドラマ劇場となる。タス通信はまた、この変更は名称だけでなく劇場のレパートリー方針にも関係している、というウクライナ文化相オレクサンドル・トカチェンコの言葉を引いている。今後、演目リストにはウクライナ人作家や国外作家の作品が並ぶことになる。

10.35.
オペラ歌手のヴァジム・チェリジエフにコロナウイルス行動規制に反対するウラジカフカスでの集会参加の罪で厳重規制強制収容所に10年間収容される判決が言い渡される。インターファクス通信社が、このアーティストの弁護人バトラス・クリチエフの言葉を引用して伝えたところによると、チェリジエフは次の4件の罪状で起訴されている。刑法第213条(フーリガン罪)、第280条(過激主義への扇動)、第318条(公務執行妨害)、第207条1項(市民の生活と安全を脅かす状況に関する虚偽情報の意図的な公的拡散)。ロストフ州裁判所の判決に対してチェリジエフは10日以内に上訴することができる。
人権活動家のパヴェル・チコフは自身のテレグラム・チャンネルで本件の状況を次のように説明した。「2020年4月、ウラジカフカスでCOVID-19のパンデミックに関連した「自主隔離」に反対する集会が開かれた。集まった人々は、北オセチア政府総辞職と首長ヴャチェスラフ・ビタロフの解任、早期選挙の実施、活動家でオペラ歌手ヴァジム・チェリジエフの解放など政治的な要求をし始めた。彼はペテルブルグでコロナウイルスに関するフェイク情報拡散の罪で拘束されていた。路上では、デモ隊とモスクワから来たロシア国家親衛隊(ロスグヴァルディア)との衝突がおきた。(中略)
4月20日の抗議デモでは100人以上が拘束され、そのうちの65人が2日から15日間の行政拘留に処された。20人以上が刑事事件として起訴された。ヴァジム・チェリジエフ、ラミス・チルキノフ、アルセン・ベソロフの3人は、抗議活動の事実上の組織者であると認定された。本日、ロストフの裁判所が判決を下した。被告は全員有罪となったが、チェリジエフのフェイク情報拡散の罪は時効により不起訴となった。裁判所はチェリジエフに10年、ベソロフに8年半、チルキノフに8年の厳重規制強制収容所での自由剥奪を言い渡した」。
そのほか、ロシア情報監視委員会(Rosinfomonitoring)は、過激派活動への関与があるとされる組織および個人のリストにチェリジエフを〔新たに〕記載した。
チェリジエフはヴァレリー・ゲルギエフ記念ウラジカフカス芸術学校を卒業し、マリインスキー劇場若手歌手育成アカデミーとリムスキー=コルサコフ記念ペテルブルグ音楽院で学んだ。ペテルブルグのいくつかの音楽劇場(とりわけ、ミハイロフスキー劇場と「サンクトペテルブルグ・オペラ」劇場)に出演していた。市民活動家でもある。


7月16日

19.00.
マリウポリ・ドラマ劇場の俳優たちはウジホロドで初めての上演をおこなった。
本誌によると、マリウポリ・ドラマ劇場の劇団員13名と同劇場のディレクター代理・芸術監督代理のリュドミラ・コロソヴィチはマリウポリを離れ、7月16日に『国民の叫び』の初演をウジホロドのザカルポツカヤ州音楽ドラマ劇場の舞台でおこなった。
この作品は60年代のウクライナ人詩人で政治犯のヴァシル・ストゥスの生涯を描いたものである。彼は他のウクライナの反体制派の人々とともに、「反ソヴィエト的扇動とプロパガンダ」および個人崇拝復活に対する抗議の罪で幾度となく逮捕された。裁判は密室でおこなわれた。〔公正な〕手続きは侵犯され、ストゥスは最終陳述の機会を奪われ、法廷から退出させられ、不在のまま10年の強制労働および5年の流刑という判決が下された。ヴァシル・ストゥスは1985年8月27日に独房でハンガーストライキをおこなった後、9月4日に亡くなった。死後、1990年になってようやく名誉回復がなされた。
作品には演出家のリュドミラ・コロソヴィチ、美術家のエマ・ザイツェヴァ、そして振付家のナタリヤ・カスピシャク=セノフが参加。
同劇団は今後も『国民の叫び』を携えて巡業を続けていくことを予定している。同劇場は、フランス、ポーランド、スロヴァキアの各劇場での上演を計画している。


7月15日

19.00.
7月15日、アヴィニョンでリトアニアのロシア・ドラマ劇場の作品『神々の夜明け』(マリュス・イヴァシキャヴィチュス作)の初演がおこなわれた。この作品は、ブチャでの出来事の後に書かれたものである。この作品は、リトアニア人俳優たち、およびウクライナやベラルーシ出身の俳優たちの生活の実際や証言に基づいたドキュメンタリー的考察である。「私たちは『神々の夜明け』を一種のドキュメントとして、そして目撃者たちの演劇と呼びうるような極めて作家的な作品として創作しました」と劇場のサイトでは演出家の言葉が引かれている。「私たちはこの悲劇の本当の証人たち、この不幸を個人的に体験した人々を見つけました。私たちは驚くべき形でその日々を耐え抜き、逃れてきた俳優たちを見つけたのです」。
『神々の夜明け』はアヴィニョンで7月16、19、21、22、24-28日に上演される。


7月14日


劇場のファサードから「ゴーゴリ・センター」の看板が取り外される。
ゴーゴリ・センターの看板取り外しの様子が撮影された映像がキリル・セレブレンニコフのテレグラム・チャンネルで公開された。
6月29日、〔モスクワ〕文化局はゴーゴリ・センターの芸術監督アレクセイ・アグラノヴィチおよびディレクターのアレクセイ・カベシェフとの契約を更新しないことが明らかになった。ゴーゴリ・センターの多くの職員たちは即座に辞職を申し出て、ゴーゴリ・センターはその活動を終えた。新たに芸術監督に任命されたのは、アントン・ヤコヴレフ、ディレクターにはアレクサンドル・ボチャルニコフで、劇場の正式名称はゴーゴリ劇場に変更された。
ゴーゴリ・センターの最後の上演がおこなわれていた6月30日、ゴーゴリ・センターのロゴがアヴィニョン教皇庁の壁に映し出された。この時、その場所ではセレブレンニコフの作品『黒衣の僧』のリハーサルがおこなわれていた。そして、ゴーゴリ・センターの俳優たちが参加して制作されたタリア劇場のこの作品でアヴィニョン演劇祭は7月7日に開幕した(ロシア人演出家がロシア人の俳優たちとともにメインステージで上演するのは、76年の歴史の中で初めてだった)。


7月11日

12.00. 
エンジニア劇団АХЕは公式サイトで演劇プロジェクト「ポーロフ〔火薬〕」の閉鎖を発表した。当プロジェクトはサンクトペテルブルグのラミネート工場に5年にわたり活動を行ない、ロシアの若手現在美術家たちの実験的空間となっていた。当初、プロジェクトのキュレーターであるパーヴェル・セミチェンコとマクシム・イサエフ(エンジニア劇団АХЕの創設者たち)は現状ではペテルブルグでもっともラディカルな空間の一つを維持することが不可能であることから「ポーロフ」の中断を決めた。しかし、彼らが借りていた工場の管理部にとっては、せっかくの空間をそのままにし、他に貸し出せないということは不可能だった。そのため、セミチェンコとイサエフはプロジェクト「ポーロフ」を完全に閉鎖することにした。詳細に関しては、本誌の記事を参照されたい。


7月10日

10.15.
ポリーナ・アグレエヴァは「ピョートル・フォメンコ工房〔劇場〕」の同僚たちとともに、ドンバスを訪問した。彼女はドネツクや二つの非承認共和国にあるいくつかの都市を訪れた。
地元メディアのインタビューでアグレエヴァは次のように語った。「今回14歳から22歳の若い人たちと会いました。ルガンスク人民共和国とドネツク人民共和国の住人たちは並外れた勇気と忍耐力の例として歴史に名を残しました。もちろん、その苦しみは報われなければならないのです。私たちには勝利しかありえません」。


7月8日

12.00.
9月以降、モスクワ芸術座におけるドミトリー・クルィモフの演出作品『セリョージャ』でのカレーニナの役は、アナトリー・べールイに代わって、コンスタンチン・ハベンスキーが演じる。モスクワ芸術座の公式SNSで告知された。
とりわけ彼が参加することになる上演は、9月5,6日のクラスノヤルスクでの巡業で、当地で『セリョージャ』はゴールデン・マスク賞のプログラムの開幕作品となる。モスクワ芸術座の舞台では、同作品は9月14日と19日に上演される。
9月に予定されているモスクワ芸術座のそのほかの作品にも、アナトリー・ベールイは出演しない。テアトル誌のモスクワ芸術座に近い情報源によると、ベールイはモスクワ芸術座を自らの希望で辞し、国外に出たとのことである。


7月4日

22.15.
近い将来ロシアには戻らないことをこの春に決めていた演出家ドミトリー・クルィモフが、アントン・ドーリンのインタビューの中で、リガでの新しい作品のリハーサルに参加したことを語った。新リガ劇場のレパートリー に入ることになるこの演目には新リガ劇場の俳優たちが出演し、その中にはチュルパン・ハマトヴァもいる。3月に新リガ劇場芸術監督のアルヴィス・ヘルマニスはロシアを離れたハマトヴァを劇場の所属女優となるよう招き、6月にはラトヴィアの舞台で第一作目となる共同作品を発表した。モノドラマ『Post Scriptum』はドストエフスキー『悪霊』の中の一章とアンナ・ポリトコフスカヤのテキストに基づいており注目すべき文化的出来事となった。とりわけこれを高く評価したのがドミトリー・クルィモフだったのである。
アルヴィス・ヘルマニスは自身のSNSでインタビュー動画を公開し、コメントを添えている。「ええ、それは本当です。最良のロシア人演出家のドミトリー・クルィモフは新リガ劇場で芝居のリハーサルを開始しました。詳細はシーズンのはじめに発表します」。来るべき初演はクルィモフとハマトヴァの初めての協働となる。

18.30.
TASS通信によると、下院市民社会発展委員会副代表のオリガ・ザンコ(統一ロシア党)が捜査委員会にロシア人作曲家のアレクサンドル・マノツコフの行動について、法的評価を行なうよう依頼した。彼女によれば同作曲家は、ウクライナ軍を自身のSNS上で支持し、それにもかかわらず国内の劇場から多くの仕事を受けている。
TASS通信は次のように議員の言葉を引いている。「例えば、2022年5月24日に120万ルーブルで音楽作品を作る契約を、州立文化機関である「ペルミ・アカデミー劇場シアター=シアター」と結んでいます。それにもかかわらず、このロシア人作曲家は自分のSNSで、どうやったらウクライナ軍を支援できるか、ということを話しています」。
オリガ・ザンコは、捜査委員会代表のアレクサンドル・バストルィキン宛てに議員質問を送ったと言明している。

16.00.
クスバス(ケメロヴォ州)のジャーナリストでテアトル誌の執筆者でもあるアンドレイ・ノヴァショフの引き続きの審理がプロコピエフスクで開かれた。同氏はロシア連邦法 第207条3項1号(国外でのロシア軍の行動に関する虚偽情報の意図的な拡散)について起訴されている。プロコピエフスクのジャーナリスト、ヴィリ・ラヴィロフが本誌編集部に語ったところによると、これまでの二回の審理と同様に検事側の証人が出廷した。Eセンター(ロシア内務省過激派対策本部)の職員グレブ・シェフツォフは、ノヴァショフの投稿が「反政府主義」であったため、これを刑事告訴の根拠として報告したと述べた。他の証人の証言について、弁護士のマリヤ・ヤキナは多くの欠陥と矛盾を指摘したが、これら全てが裁判官オリガ・ルチャンキナによって「本件との関係なし」と却下された。
アンドレイ・ノヴァショフは3月21日に拘束されている。VKontakte〔ロシアのSNSサービス〕への投稿が原因で、最大3年の勾留の危機にある。現在、ノヴァショフは自宅におり、裁判所の決定により「タイガ・インフォ(Тайга.инфо)」および《シベリア/リアル(Сибирь. Реалии)》を運営する「ラジオ・スヴァボーダ」の記者と接することを禁じられた(いずれもロシアで外国エージェントに指定されている)。また、母親、弁護士、予審判事への電話をのぞき、インターネットや電話を使用できない。また、人の集まるイベントに参加することや郵便物の発送も禁じられている。


7月1日

19.10.
サチリコン劇場の「かもめ」の上演に先立ち、同作の演出・出演のユーリ・ブトゥソフが客席にメッセージを述べた。「私たちはこの作品を、破壊された「ゴーゴリ・センター」の仲間たち、信念を同じくする彼らとの連帯と支持の証として上演したいと思います」。この後、公演会場のワフタンゴフ劇場の1000人規模の客席では数分間にもおよぶ拍手が鳴り響いた。


6月28日

12.39. 
俳優のセルゲイ・ガルマシがヘルソン州立劇場の復興計画に参加。TASS通信がヘルソン州軍民行政府トップのヴラジミル・サリドの発言を用いて伝えた。
ヴラジミル・サリドの発言によると「故郷であるヘルソンに私たちの友人で、全ロシアが敬愛する俳優の一人であるセルゲイ・レニオドヴィチ・ガルマシがやって来ました。昨日、彼は私のところに来て、私たちの劇場の復興計画に参加する旨を伝えてきました」。
セルゲイ・ガルマシは1958年9月1日にヘルソンで生まれ、当地でそのキャリアをスタートさせた。1977年にドネプロペトロフスキー国立演劇学校人形劇俳優専攻を卒業し、その数ヶ月後にヘルソン州立人形劇場で働きはじめた。