ロシア演劇界タイムライン(2022年2月24日-)第9週

凡例

タイムラインはテアトル誌を踏襲し、時系列を遡る形で記している(新しい情報が上)。

訳者による割注は〔〕で記している。

戯曲、小説、上演等の作品タイトルは内容を確認できていない場合、仮置きの日本語訳を記している。

人名におけるアクセントの音引きは、基本的には表記しない。

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ロシア演劇界タイムライン(2022年2月24日-)第9週

Театр.誌原文(第9週)

(翻訳:伊藤愉)

▶︎公開:5月16日20:40
▶︎更新:5月22日22:25、5月22日23:25


2月24日、テアトル誌はウクライナ領の状況に関連するタイムラインの記録を開始した。

*Roscomnadzor(ロシア連邦通信・IT・マスメディア監督庁、Federal Service for Supervision of Communications, Information Technology and Mass Media)はロシア軍によるウクライナ各都市への砲撃やウクライナ民間人の犠牲関する情報、および進行中の作戦を攻撃・侵略・宣戦布告と呼ぶ資料は現実に即していないとみなしている。



4月27日

19:25. 
モスクワのマヤコフスキー劇場は、ミンダウガス・カルバウスキスの『家族のアルバム』がナチズムのプロパガンダで、反ロシア的表現であるとみなしたテレグラムチャンネル、および中央テレビ局の非難に応答した。エヴゲニー・シモノフ、ミハイル・フィリッポフ、ガリーナ・べリャエヴァが出演する本作は、トーマス・ベルンハルトの戯曲『安息〔原題:Vor dem Ruhestand〕』に基づいた作品である。SNSで劇場側は、詳細な反論を公開し、そこでは、ベルンハルトが公然と反ファシストだったことも記されている。とりわけ以下のような記述もある。「戯曲『安息』は反ファシスト的な平和的戯曲の一つです。この戯曲は1979年に作者によって書かれ、ソ連での最初の翻訳は80年代初頭に出版されました。
この作品は2020年10月30日に初演をむかえました。このことから、どのような類推も受け入れ難く、こじつけです。コンテクストから切り離された、2分間程度の断片から結論を出すべきではない、ということも確認しておきます。簡単に誤解を招くことはできるのですから。
『家族のアルバム』は実際の出来事に基づいて書かれた反ファシスト的戯曲で、ドイツの国家公務員である裁判所長が、かつての収容所司令官で熱烈なナチスであると暴露された時の話です。この戯曲は、信念を持ったドイツの民族主義者が後悔と罰から上手くのがれ、身内では毎年ヒムラーの誕生日を祝い、過ぎし時代の復活を夢見ている話です。しかし、ドイツ人家族が繰り広げられるこの作品は避けがたい終わりを迎えます」。
それでも、5月3日と14日に予定されていた直近の『家族のアルバム』上演は劇場の予定演目からは削除された。

18.00. 
キーロフ州立ドラマ劇場のディレクター、コンスタンチン・ザイヌリンが、違法掲載を理由にZ文字のバナーが劇場の屋舎から外されたという情報について反論。ザイヌリンは破壊主義者(ヴァンダリスト)たちがバナーを傷つけたため、撤去に至ったと主張した。
キーロフ劇場はSNSで同ディレクターのコメントを公開。
「4月24日から25日の深夜、『私たちは諦めない!』の〔フレーズが書かれた〕バナーが破壊主義者たちによって傷付けられました。このバナーには、ネオナチ部隊からドネツク・ルガンスク人民共和国の領土を解放するために実施中である特別軍事作戦の非公式のシンボル「Z」が書かれていました。これは明らかに政治的行動であり、実際のところ卑劣な煽動行為です。卑劣というのは、これが夜中に、こっそりと、秘密裏に行われたからです。〈中略〉バナーを外した理由は、切り刻まれてしまったという一点のみです。現在、警察が犯人を捜索中です」。


4月26日

14.30. 
キーロフ州立ドラマ劇場の屋舎からZ文字のバナーが取り下げられた。〔ニュースチャンネルの〕「7×7ーホリゾンタル・ロシア」がテレグラムで伝えた。キーロフの住民が市の管理局にバナー設置の合法性を確認するよう要求。劇場管理部がポスターについて公営機関「市内広告」と審議していなかったことが判明した。

13.45. 
120を超える演出家、俳優、劇作家、批評家、プロデューサー、その他の演劇従事者らが「現在のロシア演劇界における状況への異議」を訴える「ロシア演劇界のオープンレター」に署名した。書簡の筆者らは、ウクライナにおける軍事行動への批判的発言を理由に「新たなキャンセルカルチャー」を被っているミハイル・ドゥルネンコフやその他の仲間達への支持を表明している。

13.35. 
デニス・アザロフがロマン・ヴィクチュク劇場の芸術監督を辞任したと劇団のミーティングで通達された。アザロフの退任について、理由の説明はされていない。


4月25日

2.20.
メトロポリタン・オペラとポーランド国立オペラが、ウクライナの音楽家たちを集め、Ukrainian Freedom Orchestraという名のグループを結成する。同グループは6月28日から8月20日にかけて、ヨーロッパ・アメリカツアーを企画している。音楽団の芸術監督はウクライナ系カナダ人指揮者のケリー・リン・ウィルソンが務め、ピアニストのアンナ・フョードロヴァとソプラノ歌手のリュドゥミラ・モナストゥィリスカヤが出演する予定。プログラムにはショパン、ブラームス、ベートーヴェン、ドヴォルジャーク、シルヴェストロフの曲が組み込まれる。


4月24日

16.00.
ペテルブルクの劇場「喜劇俳優の隠れ家」でのユリヤ・アウグが参加する作品『それは全部彼女』の5月、7月の公演が中止に。4月22日にロシア下院議員のヴィタリー・ミロノフが、ペテルブルクは彼女を歓迎していないとし、同市へのユリヤ・アウグの訪問を牽制していた。彼女が主役を演じていたエレクトロ・シアターの『庭』(デニス・アザロフ演出)は中止され、タガンカ劇場では彼女がヤロスラフ・プリノヴィチの脚本に基づき演出した『エリーザ』が『タルチュフ』(ユーリー・リュビーモフ)に変更されている。

15.00.
ノヴォシビルスクの劇場レッド・トーチ・シアターの主任演出家であるティモフェイ・クリャビンが、2015年から勤めてきたそのポストを辞任。

11.50.
〔クラシック音楽情報サイト〕Slipped Discがパヴェル・コガンがモスクワ国立公共管弦楽団の芸術監督および主任指揮者のポストを断ったことを報じた。記事によれば、音楽家はウクライナにおける軍事行動を理由にこのような決定を下したという。

10.30.
ジョン・ノイマイヤーのハンブルク・バレエ学校が6歳から13歳までのウクライナの子どもたち10名を受け入れた。彼らは4月30日と5月20日に『はじめの一歩』という作品に参加し、ハンブルク州立歌劇場の舞台にあがる。


4月22日

23.00.
女優のオクサナ・ムィシナが自身のSNSページに、劇作家ミハイル・ドゥルネンコフをロシア演劇人同盟から除名するという提議について、〔連盟代表の〕アレクサンドル・カリャギンへの書簡を公開した。

「率直に話すべき時というものがあります。私たちは仲間なのですから。俳優、演出家、劇作家。演劇を愛し、舞台芸術に自身の人生を捧げてきた人々はみな仲間です。
[……]「同盟」という言葉は肩、支え合いを意味しています。有名で、敬愛すべき劇作家ミハイル・ドゥルネンコフがFacebookに反戦的な投稿をしたという罪がもし、あなたの個人的な考えなら、除名は思い違いであるということをご理解ください。演劇人同盟のメンバーたちの〈ウクライナにおける軍事行動にーーチアトル編集部注〉反対の立場をコントロールすることはあなたの責務に含まれていないのですから。そうじゃありませんか? 照明スタッフせよ、小道具係にせよ、演出家にせよ、劇作家にせよ、俳優にせよ、メイク係にせよ、プロンプターにせよ、音響デザイナーにせよ、美術家にせよ、いかなる劇場に関わる人間であれ、その平和主義的考えを理由に演劇人同盟からの除外を要求することは、ロシア演劇人同盟は政治的動機に基づいた組織であるということに自分自身の手で署名をするようなものです。[……]劇作家〔ミハイル・ドゥルネンコフ〕の反戦的投稿を非難したあなたの激昂は間違いでしょう。長期的観点から見て、です。芸術家として、あなたはより高みにいるはずです。
敬意を込めてーオクサナ・ムィシナ」

19.00.
スイスの都市ザンクト・ガレンでの音楽祭で予定されていたチャイコフスキーのオペラ『オルレアンの少女』の上演が中止。
音楽祭の公式サイトでは、ウクライナ領での紛争により主催者らは「公の空間で、軍事行動と結びついた筋書きのロシア作品の上演を是認することはできない」と述べられている。チャイコフスキーの上記の脚本を用いたオペラの代わりに、ヴェルディの『ジョヴァンナ=ダルコ〔ジャンヌ・ダルク〕』が上演される。上演は7月24日、25日、28日に予定されている。
先日、プラハ国立歌劇場もチャイコフスキーのオペラ『チェレヴィチキ〔小さな靴〕』の上演を「帝国主義の考えを支える」作品であるという理由で中止したことを発表した。

17.00.
サチリコン劇場は舞台『R』〔Revizor(査察官)のR〕の作品ページからミハイル・ドゥルネンコフの名前を削除。演出家ユーリー・ブトゥソフの作品〔『R』〕はレパートリーに残されており、直近の公演は4月29日と30日に予定されている。

16.30.  
劇団「相互作用」のメンバーであるシフラ・カジュダン、リョーシャ・ロバノフ、アレクサンドラ・ムン、クセニヤ・ペレトルヒナが、『小鳥の大学』の定期上演を行なっていたロシア演劇人同盟ボヤルスキー会館との関係を解消するとSNSで発表。音楽家のオリガ・ヴラソヴァと照明デザイナーのエレナ・ペレリマンも彼らとの連帯を表明している。その声明は『小鳥の大学』で用いられている鳥のイラストの形をとっている。劇団は5月の公演中止についても発表。さらに、劇団「相互作用」はミハイル・ドゥルネンコフの反ロシア的発言への弾劾と、彼を演劇人同盟から排除する呼びかけには賛同しないと表明した。

16.00.
チェーホフ記念モスクワ芸術座の俳優、アナトリー・ベールイはSNSで、この間に協働を拒否されたり、ロシアを離れなければならなかった演劇関係者たちへの支持を表明。「マリナ・ダヴィドヴァ、レナ・コヴァリスカヤ、ユリヤ・アウグ、ミーシャ〔ミハイル〕・ドゥルネンコフ、多くの演劇関係者の皆さん、今日その市民的立場を抑圧されているあなた達とわたしは共にいます。ロシア連邦演劇人同盟のおこないに対しての抗議を表明します」。
先日、演劇人同盟のサイトには、ミハイル・ドゥルネンコフがウクライナでの軍事行動を非難する発言をしたことに対し、アレクサンドル・カリャギンが鋭く反応し、コメントを公開していた。同盟の代表〔カリャギン〕は劇作家〔ドゥルネンコフ〕への怒りをあらわにし、彼は同盟から除名されるだろうと記していた。

15.04.
アレクサンドル・カリャギンがロシア演劇人同盟からミハイル・ドゥルネンコフを除名するとした方針に対して、演出家のボリス・パヴロヴィチが自身のSNSに声明を公開。文書内で彼は同盟への親愛と共同プロジェクトへの感謝を述べつつ、ミハイル・ドゥルネンコフのロシア演劇界における働きに言及して、同劇作家が除名された際には、自身も同盟を抜ける意向を記した。ボリス・パヴロヴィチは次のように述べた。「もし、同盟がミーシャ〔ミハイルの愛称〕を会員から除外することがあり得ると考えているなら、悲しみとともに同盟には私の居場所もまたないということを認める必要がある。
もし、ミーシャを同盟から除名する会議が一方的に実施されるのであれば、私も除名リストに加えてほしい」。

10.00.
スタニスラフスキー・エレクトロ・シアターでのニキータ・ベテフチン演出『ロナルドはおばあちゃんには追いつけない』の上演が中止。劇作家のセルゲイ・ダヴィドフが自身のSNSに投稿した。プレミア公演は本日4月22日に行われる予定だったが、エレクトロ・シアターのサイトの上演作品から同演目は削除されており、イベントページには「チケットを購入」のボタンも無い。
これより前、エレクトロ・シアターはユリヤ・アウグが参加する『庭』(デニス・アザロフ演出)の上演を中止している。


4月21日

23.30. 
独立系演劇グループ「ソソの娘たち」は、4月30日と5月9日のロシア演劇人同盟のボヤルスキー会館でのプーシキン『大尉の娘』のプレミア上演を行なわない。これについて演出家のジェニャ・べルコヴィチがSNSで発言した。この中止は、ミハイル・ドゥルネンコフがウクライナにおける軍事行動を批判し、これに応じたアレクサンドル・カリャギン〔演劇人同盟代表〕の発言に起因する。ロシア演劇人同盟の代表は憤慨をあらわに、同劇作家の演劇人同盟からの除名を望んだ。これへの不同意と同盟と協働しない表明として、ジェニャ・ベルコヴィチはボヤルスキー会館での新作上演を中止することにした。『大尉の娘』のプレミア上演は他会場で予定されている。

20.00. 
5月4日にパリで予定されていたテオドロス・クルレンツィスのコンサートが中止された。
この決定についてはmusicAeternaオーケストラの公式サイトで公表された。
告知文では以下のように書かれている。「残念ながらThe Sound of Light〔ラモー没後250年を記念して2014年に制作されたオペラ=バレ舞曲アンソロジー・アルバム〕を上演するmusicAeternaのコンサートの中止をお知らせしなければなりません。ジャン=フィリップ・ラモーのバロックオペラ、バレエ音楽から成る複雑で充実したこのプログラムは、さまざまな国の演奏家の参加と長い期間のリハーサルを要します。物流の問題と実現の不確定性により、このプロジェクトは不可能であると判断しました」。
以前、在墺ウクライナ大使のヴァシリー・ヒミネツ氏が、クルレンツィスがmusicAeternaオーケストラと共にザルツブルク音楽祭〔Salzburger Festspiele〕に参加することに対して激しい批判を述べていた。
また、ウィーン・コンツェルトハウスでは、関係者の意向で同オーケストラの慈善コンサートが中止された。このコンサートの収入はウクライナ人の避難者の支援に充てられる予定だった。コンサートハウス芸術監督の言葉によれば、開催にあたっての最初のコンセプトは、musicAeternaオーケストラを構成するロシア、ウクライナ、他の国々からの音楽家たちが、民族を超えて「一繋がりの輪のように、音楽の力を共に表現する」というものだった。しかし昨今の状況で、このアイデアは「残念ながら実現できない」。

19.30. 
ロシア演劇人同盟のホームページに、同盟代表であるアレクサンドル・カリャギンのメッセージが公開された。彼は劇作家ミハイル・ドゥルネンコフが発したウクライナでの軍事行動に対する批判について言及した。
アレクサンドル・カリャギンは次の様に述べている。「劇作家ミハイル・ドゥルネンコフの発言に、怒りを完全に言い表す言葉を見つけられません。ここではいかなる議論も不要であり、彼の言葉を引用することさえ気が乗らない。私は彼がロシア演劇人同盟の一員であること、それどころか、書記局のメンバーであることが極めて残念です。彼が私たちの組織にいることはもはや不可能だろう。書記局が彼を演劇人同盟から排除する決定を下すと確信しています」。
4月19日、ミハイル・ドゥルネンコフは自身のSNSにウクライナでの「特別作戦」を批判するポストを投稿していた。下院議員であり俳優のニコライ・ブルリャエフは同劇作家を次のように非難した。「このような発言は、法的判断を受け、発言者にその責任を問う司法機関〔に裁かれる〕に値する」。
本日4月21日、俳優技能学科で教鞭をとっていたモスクワ芸術座スタジオとミハイル・ドゥルネンコフの間で労働契約が破棄されたことが明らかになった。これについてロシア下院議員のアレクサンドル・ヒンシュテインが自身のテレグラム〔ロシアの大手通信アプリ〕・チャンネルで発表した。

17.00. 
プラクチカ劇場の演目表から『Black & Simpson』及び『FIR』〔第四次産業革命/Fourth Industrial Revolution〕の上演日程が削除された。それぞれ4月22日と5月11日、12日に上演予定だった。また、これらの作品ページには「チケット購入」のボタンもない。劇場サイトでは演目の変更について何にも言及されていない。ただし、『FIR』の劇作家であるミハイル・ドゥルネンコフと『Black & Simpson』に出演しているアレクサンドル・フェクリストフは、ここ最近、ウクライナにおけるロシアの「特別作戦」について批判的な発言をしていた。
プラクチカ劇場が現在上演を行なっているモクスワ博物館ホームページの作品情報ページでもチケットの購入はできない。

12.31. 
4月21日にタガンカ劇場で予定されていたユリヤ・アウグ演出『エリーザ』(ヤロスラヴァ・プリノヴィチ作)の上演が中止に。代わりにユーリー・リュビーモフの『タルチュフ』が上演される。『エリーザ』は成人した子供たちの反対により一緒になることができなかった老齢の二人の愛の物語である。同作の主演はリュボフィ・セリュチナとユーリー・スミルノフが演じている。
劇場は上演変更に関して公式のコメントは出していない。また、それ以外の上演日程もサイトには掲載されていない。同作のページは〔上演中の演目から〕「作品アーカイブ」のカテゴリーに移された。『エリーザ』の初演は2016年だった。
この前日〔4月20日〕には、ユリヤ・アウグが主演するモスクワのエレクトロシアターの『庭』(デニス・アザロフ演出)も挑発行為の可能性を理由に中止されている。


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