ロシア演劇界タイムライン(2022年2月24日-)第10週

凡例

タイムラインはテアトル誌を踏襲し、時系列を遡る形で記している(新しい情報が上)。

訳者による割注は〔〕で記している。

戯曲、小説、上演等の作品タイトルは内容を確認できていない場合、仮置きの日本語訳を記している。

人名におけるアクセントの音引きは、基本的には表記しない。

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ロシア演劇界タイムライン(2022年2月24日-)第10週

Театр.誌原文(第10週)

(翻訳:守山真利恵、伊藤愉)

▶︎公開:5月31日05:50
▶︎更新:6月1日02:00


2月24日、テアトル誌はウクライナ領の状況に関連するタイムラインの記録を開始した。

*Roscomnadzor(ロシア連邦通信・IT・マスメディア監督庁、Federal Service for Supervision of Communications, Information Technology and Mass Media)はロシア軍によるウクライナ各都市への砲撃やウクライナ民間人の犠牲関する情報、および進行中の作戦を攻撃・侵略・宣戦布告と呼ぶ資料は現実に即していないとみなしている。



5月4日

19.45.
ローラン・イレールはバイエルン国立バレエ団の芸術監督に就任とフランスのフィガロ紙が報道。スタニスラフスキー・ネミロヴィチ=ダンチェンコ音楽劇場バレエ団の前芸術監督が、バイエルン・バレエ団を2016年9月から2022年4月まで率いていたイーゴリ・ゼレンスキーと交代することとなった。2月27日にイレールはフランス紙のAgence France-Presseに、「このきわめて難しい状況を鑑みて、職を辞してモスクワを離れる」と語っていた。

15.00.
リガのダイレス劇場でティモフェイ・クリャビンの作品『綿畑の孤独の中で』(ベルナール=マリ・コルテスの戯曲)クリエーションの第二段階が始動した。主演はジョン・マルコヴッチとインガボルガ・ダプクナイテ。本作はダイレス劇場とロシアの現代芸術支援発展フォンド「テリトリア」の共同制作となるはずだった。しかしウクライナでの軍事行動が始まったことにより、劇場はロシア側パートナーとの契約を解消。ダイレス劇場は自己資金と地元スポンサーの支援で制作費を捻出することができ、5月4日に稽古が再開された。本プロジェクトに関する詳細は弊誌の記事を参照(http://oteatre.info/malkovich-i-dapkunajte-sygrayut/)。
初演は5月28-31日と予定されている。2022年末までに本作のさらに別の部がダイレス劇場で上演され、2023年には『綿畑の孤独の中で』は世界ツアーを行なう予定である。本作は英語で上演される(リガではラトヴィア語の字幕つき)


5月1日

21.20.
ソーシャルアート・プロジェクト「イヴの肋骨」コーディネーターのユリヤ・カルプヒナは、フェミニズム・アクティヴィストのダラ・シューキナとともに連行されたガッチナ警察署から、調書の作成もないまま釈放された。LGBTQ団体に反対するチムール・ブラトフが政治的運動の実施を準備しているという通報したことにより、二人は拘束された。シューキナによれば、彼女らはいかなるイベントも企画していなかったという。

20.59.
ボリショイ劇場はバレエとオペラの演目が同時に変更されたことについてSNSに投稿した。バレエ『ヌレーエフ』とオペラ『ドン・パスクワーレ』は5月5日から8日に予定されていた。どちらも理由が明示されることなく別のタイトルに差し替えられた。バレエ『ヌレーエフ』はイリヤ・デムツキーの音楽に、ユーリー・ポソホフ振り付け、演出家のキリル・セレブレンニコフが創作し、オペラ『ドン・パスクワーレ』は、〔演出家〕ティモフェイ・クリャビンが演出していた。

17.00. 
ソーシャルアート・プロジェクト「イヴの肋骨」コーディネーターのユリヤ・カルプヒナは行政法違反の疑いでサンクトペテルブルグで拘束された。彼女はガッチナ警察署に連行されている。この件は、演劇批評家のオクサナ・クシリャエヴァがSNSに投稿した。

9.50.
ミハイロフスキー劇場バレエ・ダンサーのエイドリアン・ミッチェルとアンドレア・ラシャコヴァはロシアを去った。NY1のインタビューで彼らはこの件について語っている。7カ国を2週間で周ったあと、アーティストたちはニューヨークに到着し、ウクライナへの寄附金を募るためのガラコンサートに参加した。


4月30日

21.00.
ニューヨーク・メトロポリタンオペラの『トゥーランドット』でアンナ・ネトレプコの代役を務めたウクライナ人オペラ歌手のリュドミラ・モナストィルスカヤは、4月30日の上演後に国旗に身を包んでカーテンコールに登場した、とニューヨーク・タイムズが報じた。メトロポリタンオペラとアンナ・ネトレプコの契約関係が決裂したことが明らかになったのは4月1日である。劇場支配人のピーター・ゲルブはニューヨーク・タイムズのインタビューで次のように述べた。「我々はまだ立場を変えることはできません。もしネトレプコが長期に渡ってプーチンと完全に距離をおくことを示すならば、対話に応じるでしょう」。


4月29日

19.00.
4月29日、ケメロヴォ州のジャーナリストでテアトル誌の寄稿者でもあるアンドレイ・ノヴァショフは訴訟資料を手にした。「分厚い4冊の資料でした」とアンドレイ・ノヴァショフは本誌の特派員に直に語った。「公判のなかで生じた感覚は、資料を手にしてさらに強まりました。これは捏造だ、と」。私は「明らかな虚偽」に関して罪に問われていますが、告訴されているVkontakteでの私の投稿からは、ウクライナに私の親戚がいないことはわかるはずです。私は出来事の目撃者などと装ってはいません。国際関係や軍事関係の専門家などと装ってもいません。つまり、私の投稿を見た人たちに誤解は与えていない、ということです。私に罪はない、と今までもこれからも確信しています」。
アンドレイ・ノヴァショフによるとこの資料のなかには、彼の投稿に激怒した目撃者の証言やメディアに掲載された彼の記事のコピーもあったという。「これらの出版物のほとんどは特別作戦に関するものではまったくありません。私の場合、新刑法が適用されたのは、明らかに私になにも書かせないようにするためです。これは身柄保全処分ということからも明らかです」。判決によりアンドレイ・ノヴァショフは「タイガ・インフォ(Тайга.инфо」および《シベリア/リアル(Сибирь. Реалии)》を運営する「ラジオ・スヴァボーダ」の記者と接することを禁じられた(いずれもロシアで外国エージェントに指定されている)。また、母親、弁護士、予審判事への電話をのぞき、インターネットや電話を使用できない。また、人の集まるイベントに参加することや郵便物の発送も禁じられた。
これ以前、ケメロヴォ州予審委員会はジャーナリストのアンドレイ・ノヴァショフをロシア軍に関する虚偽情報拡散の刑法(ロシア連邦法 第207条3項1号)の罪で告訴していた。当初ノヴァショフは、ジャーナリストのイヴレヴァが別のSNSに投稿した「マウリポリ/封鎖」という記事を、彼がVkontakte上の自身のページにコピーペーストした罪に問われていた。3月21日にアンドレイ・ノヴァショフは、ロシア軍に関する「フェイク」法違反で拘束されていた。

12.00.
ウィーン国立歌劇場の新シーズンに関する記者会見で劇場総支配人のボグダン・ロスチッチがロシア人アーティストのボイコットに反対を言明した。彼は、ロシア文化のキャンセルに関する議論は「バブルの中」で行なわれており、観客は興味がないと指摘。ウィーン歌劇場の指導者は劇場の演目からロシア人アーティストを排除するよう絶えず求められていると発言した。「同時に客席では観衆の歓喜の他はなにも生じていません。さらに、ウクライナ人のミカエラとロシア人のカルメンが上演後に抱き合った時、観客は音楽の成果以上により大きな拍手喝采で応えたのです」。またロスチッチはロシア人アーティストの出演の禁止はしばしばウクライナでの軍事行動とは関係のない個人的な意趣返しの表れであると考えている。ウィーン歌劇場の支配人はテオドール・クルレンツィスとmusicAeterna団員、そしてアンナ・ネトレプコの支持も表明した。ヴァレリー・ゲルギエフとの協働解消は、ロスチッチによれば政治とは関係のないものだという。


4月28日

11.00.
先日ドラマ芸術学院と統合されたメイエルホリド・センターは、演出家ニキータ・ベテフチンの演出作品『クリスマス』の5月上演を中止し、作品ページを劇場サイトから削除した。
ベテフチンは自身のSNSに「もちろんコメントなし、もちろん「技術的理由により」だ」と投稿。〔*ロシアでは明確に理由を示さない場合、慣習的に「技術的理由により」と書かれる〕
これ以前にも、スタニスラフスキー・エレクトロシアターでベテフチン演出作品『ロナルドはおばあちゃんには追いつけない』が中止されている。プレミア上演は4月22日に措定されていたが、エレクトロシアターのサイトの演目情報から当該作品は削除され、上演作品ページでは「チケット購入」のボタンが消されている。

13.02.
下院議員のエレナ・ヤムポリスカヤが自身のVkontakte〔ロシアのSNSサービス〕に、彼女がゴスチヌィ・ドゥヴォル〔モスクワの大型アートスペース〕で行われた芸術見本市「アート・モスクワ」に展示されたオレグ・クリクの彫刻《大きな母》への告訴に対する検察庁からの公式の返答を掲載した。書簡で検察庁は以下のように述べている。「下級検察庁の管理下で提出された論拠により判決が下されなかったことを考慮し、法律違反の可能性に迅速に対処するため、モスクワ市検察局は然るべき調査を行う様委任されるものとし、また、然るべき根拠に応じて検察局は対処するものとする」。また、同書面には、ロシア検察庁が本委任を管理することも記されている。
クリクの作品には、ヤンポリスカヤだけではなく下院議員のアレクサンドル・ヒンシテインも激怒していた。後者はロシア連邦捜査委員会と検察庁に、「極めて公然とロシア軍の栄光の象徴を冒涜した」ことを理由に告訴状を提出していた。彼の考えによれば、《大きな母》は、エヴゲニー・ヴチェティチの彫刻《母なる祖国像》のパロディである。連邦捜査委員会は、クリクが「ナチズムの復権」の罪に相当するとしている。

7.00.
演出家のセルゲイ・レヴィツキーがSNSで、彼の行政法違反に関する公判終了について投稿した。彼は有罪判決を受け、45,000ルーブルの過料を言い渡された。レヴィツキーがSNSに投稿したポストは「ロシア軍の信用失墜」(刑法20条3.3項)に反しているとされた。また、4月にこの件で召喚状を受け取るまでの間に、ブリヤート共和国文化大臣は彼をベストゥジェフ記念ロシア国立ドラマ劇場の芸術監督のポストから解任し(3月22日)、3月28日には「勤務調査を行なうため」東シベリア文化国立大学の職を一時的に解かれた。
裁判は4月27日に予定されていたが、レヴィツキーが市内のどこで該当の投稿を書いたかを調査するため中断された。また、4月27日には事件を調査しているソヴェツキー地方裁判所の裁判官、バヤルマ・ノルボエヴァが、レヴィツキーと彼の弁護人であるナジェジダ・ニゾフキナの言語学的見解に関する請求書を棄却した。
本日、4月28日、第二回の法廷を終えたレヴィツキーは自身のSNSに、ブリヤート共和国の最高裁判所に上訴すると明確にした上で、判決について投稿した。今日と昨日の法廷の録画は人権擁護者のナジェジダ・ニゾフキナにより公開されている。