ロシア演劇界タイムライン(2022年2月24日-)第2週

凡例

タイムラインはテアトル誌を踏襲し、時系列を遡る形で記している(新しい情報が上)。

訳者による割注は〔〕で記している。

戯曲、小説、上演等の作品タイトルは内容を確認できていない場合、仮置きの日本語訳を記している。

人名におけるアクセントの音引きは、基本的には表記しない。

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ロシア演劇界タイムライン(2022年2月24日-)第2週

Театр.誌原文(第2週)

(翻訳:守山真利恵、伊藤愉)

▶︎公開:3月23日18:30
▶︎更新:3月23日23:20、3月24日22:30


2月24日、テアトル誌はウクライナ領の状況に関連するタイムラインの記録を開始した。

*Roscomnadzor(ロシア連邦通信・IT・マスメディア監督庁、Federal Service for Supervision of Communications, Information Technology and Mass Media)はロシア軍によるウクライナ各都市への砲撃やウクライナ民間人の犠牲関する情報、および進行中の作戦を攻撃・侵略・宣戦布告と呼ぶ資料は現実に即していないとみなしている。


残念ながら、ウクライナでの状況は収まらず、私たちはこの困難な時代に劇場や文化がいかに対峙しているかを引き続き注視していく。ウクライナでの軍事行動に関連する先週の出来事については、こちらのリンクからご覧ください。


3月9日

18.36.
エルモロヴァ劇場が、タルガト・バタロフ演出のディストピア諷刺劇『(非)理想的なチェ』(アレクサンドル・ツィプキン作)のプレミア上演を延期。3月11日に予定されていたプレミア上演は4月に延期された。これについての情報は、エルモロヴァ劇場のサイトに掲載された。「アレクサンドル・ツィプキン作、タルガト・バタロフ演出作品『(非)理想的なチェ』の公開準備はできています。リハーサルは終了し、皆が初日を待っています。しかし、プレミア公演の日程変更が決定されました。この措置は戯曲のジャンルを考慮したものです。戯曲にあるような諷刺的なディストピア劇を発表する可能性をいま現在見い出すことができません」。


3月8日

17.02.
世界的に有名なチェリストのヨーヨー・マは、ワシントンのロシア大使館前で平和を訴えて演奏を行ったとClassicalMusicNews.Ruが報道。同アーティストによる単独アクションは、カーネギー・ホールでの自身のコンサートの前に行われた。これ以前、同音楽家はウクライナ情勢について、ロシア大統領ヴラジミル・プーチンに宛てて、平和への訴えとともにSNS上で率直に発言していた。

11.50.
劇作家で演出家のイヴァン・ヴィルィパエフが自身のオフィシャルサイトで、彼の戯曲を上演するロシアの国公立劇場宛ての書簡を公開。モスクワ芸術座、ボリショイ・ドラマ劇場、ネイションズ劇場、ソブレメンニク劇場、メイエルホリド・センター、その他数十の地域の劇場に宛てたもの。書簡では次のように述べられている。「私はあなたたちから受け取る予定だったお金を、ウクライナを支援する基金へと送ることを決断しました」。「もちろん、(これを強調しておきたいのですが)このお金は平和的目的にのみ用いられ、いかなる場合でも戦争目的として用いられることはありません」。同劇作家は、資金があてられる具体的な目的について各劇場に知らせることを約束している。

9.00.
ポーランドのラジオ局TokFMとその他のマスメディアによれば、ポーランドの劇場と交響管弦楽団はレパートリーからチェーホフの戯曲を扱った作品、及びチャイコフスキー、ショスタコヴィチ、スクリャビン、プロコフィエフ、ストラヴィンスキーの作品を除外する。禁止作家のリストは拡充される可能性がある。
ポーランド国立歌劇場(ワルシャワ大劇場)は先日、マリウシ・トレリンスキ演出、ロシア人バス・バリトン歌手エヴゲニー・ニキチンがメインキャストで出演予定だった『ボリス・ゴドゥノフ』上演をキャンセルしている。プレミア上演は4月8日に行われる予定だった。また、ブィドコシュチュのOpera Novaで秋シーズンの頭に予定されていた『エヴゲニー・オネーギン』も中止となった。その他、ベートーヴェン・フェスティバルからプログラムのショスタコヴィチ《交響曲第13番(バービー・ヤール)》、スクリャービン、プロコフィエフ、ストラヴィンスキーの作品も除外される。


3月7日

23.20. 
マスメディアの報道によると、イギリス人作家のジョアン・ローリングが、ウクライナの子どもたちを支援するために100万ポンドを寄付。祖母がオデッサ出身のレオナルド・ディカプリオもまた歴史的な故郷を支援し、ウクライナに1000万ドル寄付している。

22.50. 
バルセロナのリセウ歌劇場は、公式サイトで通知したとおり、劇場175周年式典のプログラムを、アンナ・ネトレプコを理由に変更。ロシア人歌手の代役は、オペラ『マクベス』、『トゥーランドット』、『ラ・ボエーム』はソンドラ・ラドヴァノフスキー(カナダ)、イレーネ・テオリン(スウェーデン)、リセット・オロペサ(アメリカ合衆国)が務める。

16.00.
2月にプレミア上演を迎えたアナスタシア・パトライの『メモリア(Memoria)』は、統合されたメイエルホリド・センターとドラマ芸術学院のレパートリーから一時的に除外される。テアトル誌が広報部に問い合わせたところ、上演中止は「制作陣の一部がモスクワにいない」ためとの回答。

13.30. 
演劇批評家のユリヤ・オセエヴァが3月6日に10日間の拘留となったことが判明。
これに関して、ユリヤ・クレイマンが自身のFacebookに投稿している。「友人の演劇批評家、心理学者、文学教師のユリヤ・オセエヴァが昨日、集会で拘束されました。夕方も夜も拘束され、朝には「交通妨害」で10日間拘禁の判決が下されました」。

12.00. 
ロシア下院議員のスルタン・ハムザエフはウクライナ領における軍事行動中に国を離れた俳優のロシア入国を禁止することを提案。


3月6日

19.00. 
トマス・ザンデルリングがノヴォシビルスク交響楽団の芸術監督と首席指揮者を辞任。その声明の一部がSlipped discで公開されている。「ノヴォシビルスクで生まれ、オーケストラとの強い結びつきを感じていた私にとって、この決断はとても辛いものでした」。トマス・ザンデルリングは2017年からノヴォシビルスク・オーケストラを率いていた。

17.40. 
トゥガン・ソヒエフは、ウクライナ情勢への対応を表明し、ボリショイ劇場の音楽監督と首席指揮者およびトゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団の音楽監督の職を辞することを決定したとの声明を発表。

16.45. 
プラトノフ国際芸術祭の創設者で芸術監督のミハイル・ブィチコフは、12年務めたそのポストを辞任することを自身のFacebookで公表。

15.00. 
ゴールデン・マスク賞演劇祭はSNSで、小劇場部門にノミネートされていた『悲しき神々の委員会』の上演中止を通知。演劇祭組織委員会によると、ペテルブルグの劇団テアトル・ポストは、「運営上の理由」でモスクワで3月10日11日に予定されていた上演を行なうことができない。演出家のドミトリー・ヴォルコストレロフはこの状況を受けてのコメントを拒否した。モスクワ市文化局の決定により、3月1日にヴォルコストレロフはメイエルホリド・センターの芸術監督の職を解任されている。
これ以前、ゴールデン・マスク賞演劇祭では、ペテルブルグのカールソン・ハウス劇場による『金の鶏』の上演が、マクシム・イサエフの激しい発言を理由に同じく中止されている。


3月5日

19.00. 
ウクライナ情勢を背景に、エクス=アン=プロヴァンスの国際フェスティバル〔エクス=アン=プロヴァンス音楽祭はオペラを中心に行われる音楽の国際フェスティバル、Festival d’Aix-en-Provence〕はロシア政府の行動を公に支持しているロシアの文化組織、及びアーティストとの協働を中断するとの声明。これについて、催事のプレス担当が告知。フェスティバルプログラムに伝統的に含まれているロシア人作曲家の各オペラは、これまで通りに演奏される。

17.00. 
オレグ・タバコフ劇場がSNSにて、3月4日に上演された「水兵の沈黙」のチケット収入はロシア赤十字に寄付されると発表。また、劇場は他の文化関係者たちにもチャリティ活動への参加を提案した。
先日、劇場芸術監督のヴラジミル・マシコフが、ルガンスク人民共和国とドネツク人民共和国の独立を承認する大統領の決定を支持し、「平和な生活への希望」と表現した。この発言により、「水兵の沈黙」は公演中止の危機にあった。人権擁護運動家で、戯曲原作者アレクサンドル・ガリチの息子でテキストの著作権保持者グリゴリー・ミフノフ=ヴァイテンコはヴラジミル・マシコフの態度に対し、断固たる反対を表明していた。

16:35. 
スロノフ記念サラトフ国立ドラマ劇場は、この現代において軍事行動は論外であると俳優から意見表明があったことを受け、セルゲイ・ラザレフのコンサートを中止した。3月3日に、サビノフ記念サラトフ国立音楽院の学生たちの名義で、署名サイトchenge.orgに「ロシアの文化人に支援を」というサラトフ州文化大臣のナタリヤ・シェルカノヴァ宛の請願が出されていた。テキストでは特に次のように述べられている。「音楽への愛に加え、私たちを結びつけているのは国家の歴史・文化・精神性です。〈中略〉私たちは、文化を代表するものとして、欧州連合とアメリカ合衆国がロシアの音楽家たちの権利を世界レベルで制限しているという事実に動揺しています。役職から退け、コンサートをキャンセルし、迫害しています。このような目に遭っている偉大な文化人の中には、ヴァレリー・アビサロヴィチ・ゲルギエフ、アンナ・ユリエヴナ・ネトレプコ、デニス・レオニドヴィチ・マツエフもいます。また私たちは、ウクライナの非ナチ化とドンバスの安全保障のための大規模作戦の開始と共に、一部のショー・ビジネスの代表者たちが私たちの社会に有害な影響を与える、非愛国的な発言をし始めたことにも、不安を抱いています。祖国への、私たち民族への献身と愛はそのような人々にとっては何の意味もないのです。これを踏まえ、2022年3月7日のサラトフ州領内でのセルゲイ・ラザレフの出演は容認し難いものと考えます」。
本日3月5日に、ラザレフのコンサートが予定されていたスロノフ記念サラトフ国立ドラマ劇場のウェブサイトにて、同劇場ディレクターのヴラジミル・ペトレンコの署名入りの文書が公開された。「私たちは、いわゆるショー・ビジネスと呼ばれている者たちのツアー公演実施に関する人々の見解、特に音楽院の生徒たちの見解について耳を傾けます。サラトフで上演予定だったラザレフ氏のコンサートについては実施されません。これは受け入れがたいものです。ロシア連邦の他地域がこの決定を支持してくれることを確信しています。なにより、チケットを購入した多くのサラトフ市民たちは既にこの出演者の立ち位置を理由にはやくもチケットを手放し始めています」。
これ以前、アルハンゲリスクでも、マクシム・ガルキンがウクライナにおける軍事行動開始について遺憾の意を示したことで、同氏のコンサートが秋に延期になったことが明らかになっている。



3月4日

20:00. 
ヴィリニュス国立小劇場〔リトアニア〕は、その創設者であるリマス・トゥミナスとの労働契約を破棄したと発表。これはリトアニア文化大臣のシモナス・カイリスが2月24日に発した以下の最後通告への応答として下された決断である。「国立小劇場ディレクターに、トゥミナス氏を明白かつ明瞭に解雇するか、またはディレクターのあなた自身の退職届けを私のテーブルに置いてもらうか、明日お待ちしていることをお伝えします。申し訳ありませんが、敬愛なる演出家は私にとって、他人の地に押し入る酔っ払いのロシア兵と何の差異もありません」。

19.27.
レグナム(REGNUM)通信社は、150人ほどのロシア文化人が署名したプーチン大統領の行為を支持する書簡を公開。署名者の中には、ニコライ・ブルリャエフ、ニコライ・レベデフ、アレクサンドル・シロフ、アレクサンドル・ミハイロフ、ヴァシリー・ボチカリョフ、ドミトリー・ペフツォフ、ヴィクトル・ラコフ、ヴラジスラフ・マレンコなどがいる。

19.15.
Apriori Arts通信社によれば、ロイヤル・オペラ・ハウス(コヴェント・ガーデン)は指揮者のパヴェル・ソロキンとの間で結ばれていた2021-2022シーズンの契約を破棄。同ロシア人音楽家は5月に、撮影して全世界の映画館に生配信されるTheatreHDのプログラムも含むバレエ『白鳥の湖』の指揮をする予定だった。パヴェル・ソロキンはロイヤル・バレエ団の定期招聘指揮者であり、2007年より協働関係が続いていた。

19.00.
スウェーデン当局はウクライナでの出来事を受け、ロシアとベラルーシの国立文化機関との関係を断つよう呼びかけ。ただし、文化人がロシア政府の行動に賛同していない場合は、個別の関係は維持しうるとする。

17.27.
ボリショイ劇場は4月のオペラ『ローエングリン』プレミア上演を変更。この代わりに4月6、7、9、10日は『カルメン』を上演する。この変更に関する発表は劇場の公式サイトとSNSホームページで告知された。2月24日に初演をむかえたフランソワ・ジラール演出の『ローエングリン』はボリショイ劇場とメトロポリタン歌劇場の共同制作作品で、プレミア上演には多くの海外アーティストが出演した。メトロポリタン歌劇場はこれ以前、「ウクライナでの軍事作戦が止まないうちは」ロシア人アーティストおよび文化施設との関係を中断すると発表していた。

11:32.
デイヴィッド・マクヴィカー演出によるヴェルディのオペラ『ドン・カルロス』のプレミア上演前に、音楽監督ヤニック・ネゼ=セガンが指揮するメトロポリタン歌劇場のオーケストラと合唱団がウクライナ国歌を演奏。会場では戦死したすべてのウクライナ人に1分間の黙祷が捧げられた。
その他、劇場は近く予定していたアンナ・ネトレプコの出演をすべて中止した。メトロポリタン歌劇場総裁のピーター・ゲリブは、ネトレプコがウクライナでの軍事作戦に関するロシア大統領への「公的な支持の否認」を拒否したと伝えた。これに関して、同劇場のFacebookページで公表されている。

10:59.
ワルシャワのポーランド国立歌劇場(ワルシャワ大劇場)は4月8日に予定されていたマリウシ・トレリンスキの『ボリス・ゴドゥノフ』プレミア上演をキャンセルしたと劇場サイトで発表。メイン・パートをロシアのバス・バリトン歌手エヴゲニー・ニキチンが演じるはずだった。

10:04.
パリ国立オペラはロシアの文化従事者との協働を停止することを、劇場公式サイトで発表。劇場芸術監督のアレクサンドル・ネフは「体制支持を公言している」ロシアの文化施設や演者たちとの協働関係を中止すると公表した。


3月3日

17.47.
タシケントにあるマルク・ヴァイルのイルホム劇場が、2022年6月にメイエルホリド・センターで開催予定だった第4回現代演劇国際フェスティバル”NONAME”への参加を拒否。3月3日にFacebookの劇場公式ページで公開された書簡によれば、劇場の成員一同は、エレナ・コヴァリスカヤとドミトリー・ヴォルコストレロフへの連帯表明として、この決断を下した。両氏はメイエルホリド・センターを去り(コヴァリスカヤは自発的、ヴォルコストレロフは解雇)、その後、同劇場はドラマ芸術学院と統合された。
書簡では以下のように述べられている。「イルホム劇場一同は、メイエルホリド・センターにおける、これらの人事異動と組織改変を、伝統ある劇場における理念的変更とみなしています。メイエルホリド・センターの様々なプログラムの出発点であった精神的リーダーたちを欠くこの変更は、この劇場の活動方針を根本的に変えうる、と私たちは考えています。
私たち劇場一同は、エレナ・コヴァリスカヤ氏とドミトリー・ヴォルコストレロフ氏のプロフェッショナルで市民的な立場を全面的に支持することを表明します。これらの理由から、イリホム劇場の団員は第4回現代演劇国際フェスティバル”NONAME-2022″への参加を拒否する決定をしました」。

17.29.
ヤロスラブリ州に到着したルガンスクおよびドネツク両人民共和国の住民は、ヤロスラブリのロシア国立フョードル・ヴォルコフドラマ劇場の上演を無料で観劇できると、地方行政府広報部が発表。劇場のウェブサイト、SNSではこの情報は公開されていない。

15:03.
ペルミ市立劇場シアター・シアター〔以下、TT〕が、観客への支援として3月中の上演をすべて単一の値下げ価格で販売すると公表。「株式市場、お店、銀行で何が起きようと、ТТの3月のすべてのチケットは、予告通り固定して、300ルーブルです」と劇場はそのSNSで告知した。この行動は高評価を受け、3日間で10,000枚以上のチケットを売り上げ、TTはさらに8上演をスケジュールに追加した。この成功を受け、チケット購入時の値下げ(50%割引)をペルミ国立オペラ・バレエ劇場も導入した。

12:56.
ドレスデンのザクセン国立歌劇場(ゼンパー・オーパー)はロシアの演者たちとの協働を継続すると発表。ドイツ通信社(DPA)は同劇場ディレクターのピーター・タイラーの発言を元に報道。タイラーは、ゼンパー・オーパーでは数多くのロシア、ウクライナ、その周辺国の演者たちが働いている。彼らとの関係を断ち切るべきでないとの意見を述べた。


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