ロシア演劇界タイムライン(2022年2月24日-)第8週

凡例

タイムラインはテアトル誌を踏襲し、時系列を遡る形で記している(新しい情報が上)。

訳者による割注は〔〕で記している。

戯曲、小説、上演等の作品タイトルは内容を確認できていない場合、仮置きの日本語訳を記している。

人名におけるアクセントの音引きは、基本的には表記しない。

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ロシア演劇界タイムライン(2022年2月24日-)第8週

Театр.誌原文(第8週)

(翻訳:守山真利恵、伊藤愉)

▶︎公開:4月29日16:25
▶︎更新:5月2日00:15、5月7日17:00


2月24日、テアトル誌はウクライナ領の状況に関連するタイムラインの記録を開始した。

*Roscomnadzor(ロシア連邦通信・IT・マスメディア監督庁、Federal Service for Supervision of Communications, Information Technology and Mass Media)はロシア軍によるウクライナ各都市への砲撃やウクライナ民間人の犠牲関する情報、および進行中の作戦を攻撃・侵略・宣戦布告と呼ぶ資料は現実に即していないとみなしている。



4月20日

21.56.
ゴールデン・マスク賞演劇祭が公式テレグラムチャンネルで、最優秀オペラ演出家賞ノミネートにおいて授賞がなかった事情を説明した。事務局の説明によれば、多くの選考員がボリショイ劇場の『サロメ』に投票していたが、すでに選考会議が終わった後にボリショイ劇場管理部が演出家のクラウス・グトから「もし自分に授賞されても拒否する」という手紙を受け取ったためだという。

18.30.
ジェニャ・ベルコヴィチ演出『美しき鷹フィニスト』でゴールデン・マスク最優秀衣装デザイン賞を受賞したクセニヤ・ソロキナが、自身の賞を反戦アジテーション拡散の罪で逮捕されたサシャ・スコリチェンコに渡すと表明。彼女はSNSに次の様に記している。「他の芸術家たちが監獄にいるときに喜ぶことは恥です。彼らはみな芸術家です。なによりも素晴らしい芸術家や、傑出した作品の作者たちなのです。なので、私は自分の「ゴールデン・マスク」をペテルブルクのアーティストで、いま拘置所にいるサシャ・スコリチェンコに渡したいと思います。彼女はお店で反戦ステッカーを貼って回ったため、「ロシア連邦軍の活動について誤った情報を故意に拡散した」罪で裁かれます。彼女は最大10年間、自由が奪われかねないのです」。
同作品を制作した独立演劇グループ「ソソの娘たち」は、クセニヤ・ソロキナの決定を支持し、サシャ・スコリチェンコの釈放を望んでいると表明した。サシャ・スコリチェンコはセリアック病(グルテン不耐性)を患っており、拘置所にいることは彼女の生命と健康にとって危険なことであることも参照されたい。

18.00.
ウクライナ文化大臣はリマス・トゥミナスが作品制作に招聘。ヴィリニュス国立小劇場の長年の助成団体であるヤコフ・ブンカ(Jakovas Bunka)慈善財団理事長ダウマンタス・トデサスが自身のSNSで報せた。公表によると、トゥミナスはウクライナ文化大臣アレクサンドル・トカチェンコとのオンライン会談に招待された。大臣はトゥミナスにヴァフタンゴフ劇場における支援と演出作品に対する謝辞を述べ、またレシャ・ウクラインカ記念国立ドラマ劇場もしくはキエフ・ユダヤ劇場の好きな方で作品制作を続けるよう提案した。これらの劇場の責任者らと引き続き話し合うことが予定されている。
モスクワのヴァフタンゴフ劇場芸術監督であったリマス・トゥミナスはロシアを離れ、リトアニアに帰国していた。リトアニアでは3月に文化大臣の最終勧告に応じて、〔トゥミナスが〕創設ヴィリニュス国立小劇場芸術監督を解任されていた。2月の変更されたヴァフタンゴフ劇場規約に従い、管理権限の全てはディレクターのキリル・クロクに移行した。

16.20.

2022年のゴールデン・マスク賞授賞式で、ドラマ演劇部門の主要な賞の一つである最優秀演出家賞はピョートル・フォメンコ工房で上演された『モーツァルト《ドン・ジュアン》ゲネプロ』のドミトリー・クルィモフに与えられた。先日本誌で記したように、クルィモフはアメリカに残っているため、マスク〔ゴールデン・マスク賞では受賞者に仮面の付いた盾が贈られる〕は同作で主演を務めた俳優のエヴゲニー・ツィガノフが受け取った。
クルィモフの依頼に従って、彼は次のように述べた。「私は一昨日、クルィモフと話しました。ドミトリー・アナトリエヴィチ〔・クリーモフ〕は、もし必要なら、そして私が可能であると考えるなら、以下のような言葉を伝えてほしいといいました。彼は、自分の「ゴールデン・マスク」をジャーナリストで、ノーベル〔平和〕賞受賞者のドミトリー・ムラトフ(ロシアでは海外エージェント認定ー編集部注)に渡してほしい。もし今後誰かがもう一度彼の顔に何かの液体をかけようとしたときに、このマスクが彼を守ってくれるように」
〔独立系新聞ノーヴァヤ・ガゼータの編集長であるムラトフ氏は、4月8日、モスクワ行きの列車内で何者かに有機溶媒アセトンが含まれた赤い塗料をかけられるという襲撃にあった〕

15.45.
審問委員会はゴスチヌィ・ドゥヴォルの展覧会で彫刻作品《大きな母》を展示したとして、アーティストのオレグ・クリクを刑事告訴した。芸術学者のクセニヤ・コロベイニコヴァが自身のテレグラム〔SNS〕チャンネルで報せた。クリクは「ナチズムの復権」(ロシア連邦刑法第3章345条)の罪で告発された。
これ以前、アレクサンドル・ヒンシュテイン(クリクへの苦情をロシア連邦捜査委員会と検索庁に提出した)とザハル・プリレピンは同作への怒りを露にしていた。下院文化委員会代表のエレナ・ヤムポリスカヤはロシア検察庁に調査依頼の書簡を送っている。

13.16.
アレクサンドル・ヒンシュテイン議員から苦情が寄せられ、女優ユリヤ・アウグ主演のモスクワ・エレクトロシアターの作品『庭』がただちに中止された。ヒンシュテイン氏はSNSで同女優を「ルソフォビア〔嫌ロシア〕」であると発信しただけでなく、モスクワ市文化局長のアレクサンドル・キボフスキーに対しても個人的に同作への苦言を呈していた。本日、4月20日に予定されていた上演は中止となった。
この件は女優自身も認めている。ユリヤ・アウグのSNSには、とりわけ、次のように書かれている。「たった今、プロデューサーから電話を受け、今日の上演の中止をエレクトロシアターが決めたと伝えられました。これは間違っていると思いますが、何もできません。今日の上演中か終演後に挑発行為があると予想されていた様です。すぐに三人から警告が送られてきました」。
デニス・アザロフ演出の『庭』は「死せる王妃〔ポルトガル王国王妃、イネス・デ・カステロ〕」の物語である。劇作家のクリム・シペンコの戯曲は、中世ポルトガルの出来事に基づいており、皇子ペドロ1世と彼の愛妾イネス・デ・カステロの人生と愛について描かれている。


4月19日

19.31. 
トレチヤコフ美術館新館は現代美術家グリシャ・ブルスキンの展示《デコレーションの変換》を中止した。同展示は3月23日から7月24日まで予定されていた。美術館の広報は、展示は「技術的な理由」で閉鎖したと公表している。マスメディアの情報によれば、展覧会はロシア文化省から通達により中止されたという。同省はこのようにして「展示に憤慨した市民」の陳情に応えた。
トレチヤコフ美術館でのブルスキンの展示は9つの展示室が使われ、2017年の第57回ヴェネツィア・ビエンナーレでロシア・パビリオンのために特別に製作されたマルチメディア・インスタレーション《デコレーションの変換》を含む、様々な年の作品が公開されていた。同インスタレーションは「いまあるイデオロギー、滅びたイデオロギー、腐敗したイデオロギー」の研究に関するものである。


11.30. 

指揮者のガブリエル・ゲイネは、およそ15年在籍したマリインスキー劇場を離れることを決定。マリインスキー劇場総支配人兼芸術監督のヴァレリー・ゲルギエフが4月16日に発表した。理由はウクライナでの軍事行動である、とニューヨークタイムズ誌に音楽家は語った。ゲイネが2003年から2007年までハリコフ交響楽団で首席指揮者を務めていた事実もこの判断に関係している。
人生の半分近くを過ごしたロシアを去ることは大変辛いことであるとガブリエル・ゲイネは述べた。この音楽家はアメリカ国籍だが、文化的観点からみれば自分はロシア人だと考えている。ガブリエル・ゲイネはモスクワ音楽院を卒業し、サンクト・ペテルブルク音楽院ではイリヤ・ムシンの最後の教え子の一人となった。マリインスキー劇場には2007年にヴァレリー・ゲルギエフに招かれた。


4月18日

15.00. 
ロシア下院教育委員会第一副委員長のヤナ・ラントラトヴァが、文化大臣のオリガ・リュビモヴァに「特別軍事作戦が行われている間、一時的措置として公的芸術評議会を導入する」ことを請願。TASS通信が報道している。同代議員によれば「芸術評議会の活動への国家機関の影響を排除する一時的な措置となるもの」である。
ラントラトヴァは、自身の観点から、注意を払うべき二つの作品について言及した。一つ目は「ウクライナ人アーティストであるオレグ・クリクの彫刻作品、有名な彫像《母なる祖国像》のポーズをとった《大きな母〔Большая Мать〕》」だ。《大きな母》は2018年に製作され、ゴスチヌィ・ドゥヴォル〔モスクワの大型アートスペース〕で行われた芸術見本市「アート・モスクワ」へ出展されており(見本市は4月17日に終了)、それ以前にもモスクワで公開されていた。マスメディアは、ロシア連邦上院議員のアレクセイ・プシコフの表現を用い、《大きな母》をパフォーマンスと呼んだ。BFM社の情報によると、代議員のアレクサンドル・ヒンシテインはロシア連邦捜査委員会と検察庁に、「極めて公然とロシア軍の栄光の象徴を冒涜した」ことを理由に告発を求めた。
ラントラトヴァ氏はまた、「市民のアピール」に言及し、ロシアへの「不敬が作中で表現されている」ミュージカル『チェス』に注意を払うよう、文化省に求めた。これは、冷戦期にソビエト連邦とアメリカの代表者間で行なわれたチェスの試合を扱った作品である。『チェス』(シアター・カンパニー「ブロードウェイ・モスクワ」とモスクワ青年会館劇場の共作、エヴゲニー・ピサレフ演出)は2022年のゴールデン・マスク賞で最優秀オペレッタ・ミュージカル作品賞と、10の個人賞にノミネートされている。


4月17日

23.00.
ウィルマ劇場(在フィラデルフィア)での『桜の園』制作のため、2月25日にアメリカに渡った演出家ドミトリー・クリーモフが、アメリカ合衆国を離れないと判断したことを発表。アメリカにとどまる事は当初予定していなかったが、帰国を望みつつも、近いうちに帰国することは不可能だと彼は考えている。「私が今ここにいるのは、決断したということではありません。たまたまそうなったということです」。


4月16日

21.00.
ベストゥジェフ記念ロシア国立ドラマ劇場の俳優らが『劇場/舞台裏』の終演後、観客に対し、セルゲイ・レヴィツキーの解雇について呼び掛けた。
カーテンコールの際、俳優たちは次のように述べた。「この作品は私たちの芸術監督であり〔この作品の〕演出家でもあるセルゲイ・レヴィツキーの戯曲に基づいたものです。しかし、少し前に彼は理由の説明なく職を解かれました。私たちはあなた方に何かを訴えているわけでも、お願いしているわけでもありません。ただ、彼がいないことが私たちにとってとても辛いのだと話しているのです」
3月22日にブリヤート共和国文化大臣はセルゲイ・レヴィツキーをベストゥジェフ記念ロシア国立ドラマ劇場(在ウラン・ウデ)芸術監督から解任している。3月28日には、レヴィツキーは「勤務調査を行なうため」東シベリア文化国立大学の職を一時的に停止され、4月11日には「行政上の法律違反に関する人物として」警察に召喚された。


4月15日

17.25.
クディムカル市裁判所がコミ・ペルミャツキー・ドラマ劇場の主任演出家ユリヤ・ベリャエヴァに、ロシア軍の信用を損なったとして30,000ルーブルの罰金を命じた。これについてノーヴィ・コンパニオン紙が報じている。罰金の主対象となったのは、2月24日にユリヤ・べリャエヴァが〔SNSの〕VKontacteに投稿したポストである。これ以前、同じ理由でコミ・ペルミャツキー・ドラマ劇場の女優クセニヤ・オチノヴァが二度罰金刑を受けている。3月23日、ユリヤ・べリャエヴァはリハーサル中に連行され、最初は地方分署で、その後ペルミで取り調べを受けていた。

10.00.
ボリショイ劇場は劇場SNSで、4月19日のバレエ公演『ドン・キホーテ』はドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国からの避難民に向けたものになると発表。同公演はロシア文化省のチャリティ・イベント「オープン・カーテン」への、ボリショイ劇場の二つ目の参加作品となる。4月2日には本館でバレエ『スパルタクス』が上演され、その収入はウクライナでの戦争犠牲者の家族に寄付された。

9.23.
モンテカルロ歌劇場の公式サイトによれば、アンナ・ネトレプコが『マノン・レスコー』〔プッチーニのオペラ〕で体調不良のマリヤ・アグレスタの代役を務める。4月22日、24日、27日、30日に出演予定。この出演はアンナ・ネトレプコにとって2月中旬以降最初の出演となる。ネトレプコは自身のSNSで、モンテカルロ歌劇場の舞台への不意のデビューに喜びを表わした。「2014年にリムスキー・オペラ劇場でプッチーニの同作を上演したとき、私は夫となるテノール歌手ユシフ・エイヴァゾフと初めて出会い、共演しました。そうしたこともあり、この出演はより特別なものとなります」とアンナ・ネトレプコは述べている。西側の各劇場は世界中で彼女の出演を取り消し、ウクライナにおけるロシアの軍事行動を非難するよう彼女に求め、先頃、同歌手はこの軍事行動を非難していた。


4月14日

20.43.
4月24日にフォリー劇場(アメリカ合衆国、ミズーリ州、カンザス・シティ)で予定されていた、ピアニストのダニイル・トリフォノフのコンサートが中止の可能性。The Kansas City Starが報じている。出演を企画したハリーマン・ジュエル・シリーズ(Harriman-Jewell Series)の支援者たちは、ウクライナにおけるロシアの軍事行動が厳しく非難され、同ピアニストの出演を望まない声が上がっていることを懸念している。特別作戦が始まってまもなく、近年はアメリカ在住であったダニイル・トリフォノフは自身のSNSで「全ての戦争は悲劇です」と声明を公開した。しかし、アメリカ側はこの行動では不十分だとしている。もし同ピアニストが公にロシア政府への非難を表明しない場合、彼のコンサートはキャンセルされる可能性がある。

13.50. 
本日、4月14日に2022年カンヌ国際映画祭のメインプログラムが発表された。18作品のパルム・ドール賞候補の中には、キリル・セレブレンニコフ監督作品『チャイコフスキーの妻〔Жена Чайковского〕』も含まれている。詳細はリンクを参照。〔http://oteatre.info/film-serebrennikova-2022/