ロシア演劇界タイムライン(2022年2月24日-)第4週

凡例

タイムラインはテアトル誌を踏襲し、時系列を遡る形で記している(新しい情報が上)。

訳者による割注は〔〕で記している。

戯曲、小説、上演等の作品タイトルは内容を確認できていない場合、仮置きの日本語訳を記している。

人名におけるアクセントの音引きは、基本的には表記しない。

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ロシア演劇界タイムライン(2022年2月24日-)第4週

Театр.誌原文(第4週)

(翻訳:守山真利恵、伊藤愉)

▶︎公開:3月28日15:15
▶︎更新:3月29日19:01


2月24日、テアトル誌はウクライナ領の状況に関連するタイムラインの記録を開始した。

*Roscomnadzor(ロシア連邦通信・IT・マスメディア監督庁、Federal Service for Supervision of Communications, Information Technology and Mass Media)はロシア軍によるウクライナ各都市への砲撃やウクライナ民間人の犠牲関する情報、および進行中の作戦を攻撃・侵略・宣戦布告と呼ぶ資料は現実に即していないとみなしている。



3月23日 

18.09.
サンクト・ペテルブルクのAlma Mater基金の作品『ユディト』は、2022年ゴールデン・マスク賞におけるモスクワ公演を行なわない。演劇祭の公式サイトが公表。ボリス・パヴロヴィチ演出『ユディト』は劇作家KLIM〔ヴラジミル・クリメンコ〕によってウクライナ語で書かれた戯曲に基づいている。
先日も、モスクワでの2022年ゴールデン・マスク賞で、ペテルブルクからの3作品の上演が中止になっていた。コルネリウス・バルトゥス演出のミュージカル『ミス・サイゴン』(サンクトペテルブルク・ミュージカル・コメディ劇場。同作品はゴールデン・マスク賞審査員に向けてペテルブルグで上演される)、アシャ・ヴォロシナヤ脚本でピョートル・シェレシェフスキー〔演出〕とマルィシツキー小劇場制作の『牢獄のデンマーク』、アナトリー・プラウジン演出『ドネツク 第二広場』(ツェフ劇場と「バルチスキー・ドム」フェスティバル劇場実験舞台の共同作品)。キャンセルはペテルブルグの各劇場自身からなされたもので、彼らは「技術的な理由」で上記の作品を上演できないと知らせてきた、と演劇祭側は語っている。

11.57. 
ロシアのオペラ歌手アイダ・ガリフリナは、今後メトロポリタン歌劇場には出演しない。直近の同劇場のプレミア上演で4月2日に予定されていたモーツァルト『フィガロの結婚』では、スザンナ役をガリフリナに代わり中国人歌手のイン・ファンが演じる。ガリフリナは、国際情勢の悪化後、メトロポリタン歌劇場が関係を絶ったロシア人アーティストの中で最後の一人である。


3月22日

19.00.
プラハの国民劇場はチャイコフスキーのオペラ『チェレヴィチキ〔小さな靴〕』の上演を中止。ウクライナで行なわれているロシアの特別作戦と関連して、劇場は「大ロシア帝国の歴史を支持したくはない」と述べた。この決定に関する情報は、3月22日夕刻にチェコのニュースポータルサイトSeznamZpravyに掲載された。

13.00.
ブリヤート共和国の文化大臣は、セルゲイ・レヴィツキーをベストゥジェフ記念ロシア国立ドラマ劇場(在ウラン・ウデ)の芸術監督から理由の説明なしに解任した。これまで同演出家は体制の行動をSNSで繰り返し批判していた。


3月21日

15.45.
ウィーン国立歌劇場はロシア人アーティストを支援し、彼らとの協働を続ける意向を表明。劇場のSNSに投稿された発表では、とりわけ次のように述べられている。「この間、私たちはロシアのオペラ・バレエ出演者やロシアの演出家との交流を断つよう、幾度となく要求されています。私たちはこれらの要求を断固拒否し、出自だけで人々を「良い」「悪い」と分けることに反対します。今日の出来事によって、ただ国籍を理由に才能ある人々が世界の文化的文脈から消えてしまうことなどあってはなりません」。同時に、このメッセージの中でウィーン国立歌劇場はウクライナ人への厚い支援を表明し、ロシア政府のウクライナでの行動を非難している。

13.30.
ラトヴィア人演出家アルヴィス・ヘルマニスはチュルパン・ハマトヴァを、彼が主宰する新リガ劇場の女優になるよう招待。現地メディアは演出家の言葉を引用している。「まもなく彼女は私たちの作品に参加するでしょう。まずは母国語で」。
これ以前には、チュルパン・ハマトヴァが国を去り、ラトヴィアに出ていたことが判明していた。3月の初めには、アルヴィス・ヘルマニスが『シュクシンの物語』のクレジットから自身の名を削除するよう要求している。同作はネイションズ劇場での彼の初めての作品だった(2作品目は『ゴルバチョフ』。両作品でチュルパン・ハマトヴァは主要な役を演じていた)。

11.40.
ケメロヴォ州の記者でテアトル誌の寄稿者でもあるアンドレイ・ノヴァショフがロシア軍に対する「フェイク」の刑事罰に問われ(ロシア連邦法 第207条3項1号)拘束された。ノヴァショフ氏の拘束についての情報はNet Freedoms Project(Сетевые Свободы)が telegram〔SNS〕チャンネルで、ノヴァショフ氏の弁護に当たっているマリナ・ヤキナ弁護士の言葉を引用して発信。現地メディアも同記者の審問について報道している。
Net Freedom Projectによると、ケメロヴォ州予審委員会は、新刑法に照らし合わせた犯罪の内容を、ジャーナリストであるヴィクトリア・イヴレヴァのテキスト「マリウポリ 封鎖」をシェアしたことだとしている。本刑事事件の判決文には(同文書の写真もテレグラムとマスメディアに公開された)、3月5日から現在に至るまで、VKontakte〔ロシアのSNSサービス〕のページでアンドレイ・ノヴァショフは「意図的に、〈中略〉オープンアクセスの場に投稿した。つまり、信用できる情報を装って、特別軍事作戦が該当国内で展開されている間、市民のインフラ設備を破壊し、ウクライナ市民を殲滅するためにロシア軍が用いられているという、明らかに虚偽の情報を拡散した」と記されている。
予審判事はノヴァショフ氏に対して「軍代表者への謝罪」を命令してたが、同記者はこれを拒否しているとNet Freedom Projectは報じた。チアトル誌は本件を引き続き注視していく。


3月20日

21.30.
女優、Podari Zhizn財団創立者のチュルパン・ハマトヴァはロシアから去ったことを認める。エカテリナ・ゴルデエヴァからのインタビューで語った。現在、彼女はラトビアにいる。

15.00.
ジョージア人作家タムタ・メラシヴィリは独立系演劇プロジェクト『ソソの娘たち』との協働を解消。同プロジェクトは、ジョージア・アブハジア紛争を描いた彼女の作品『数え歌(シタルカ)』を脚色したものだった。演出家のジェニャ・ベルコヴィチが自身のSNSでこのことに関して公表。最終公演は3月22日と23日にバヤルスキエ・パラトィで行なわれる。『数え歌』はテアトル誌の優秀反戦作品に選出されたことも参照。


3月19日

8.24.
ボリショイ劇場は、ニューヨークのメトロポリタン・オペラと共同制作した『サロメ』と『ローエングリン』をレパートリーに残す。これについてTASS通信が劇場総支配人のヴラジミル・ウリンの言葉を引用して報道。
『ローエングリン』の4月公演は、セカンド・キャストを用意するために、他の作品に変更された。オペラで指揮棒を振る予定だったエヴァン・ロジステルの代わりは、アメリカ人指揮者のアシスタントだったアントン・グリシャニンが務める。4月の公演後、舞台装置はアメリカに送られる予定だったが、メトロポリタン・オペラが協働を拒否したのち、ロシアで保管することが決まった。『ローエングリン』の公演は2022年6月から7月に再開予定。
ボリショイ劇場ではサイモン・マクバーニー(英国)演出のオペラ『ホヴァーンシチナ』と振付家アレクセイ・ラトマンスキー演出のバレエ『フーガの技法』のプレミア上演が延期されている。

9.42. 
ノヴォシビルスクのレッド・トーチ・シアターとヴェラ・レドリフ慈善財団は、資金を集めドンパスからの避難者たちに寄付することを発表。このために劇場ホワイエには特製の瓶が設置された。集まった資金は全ロシア非政府組織「ロシア赤十字社」に渡される。


3月18日

19.35.
映画監督のセルゲイ・ロズニツァがロシアの映画祭への参加を理由にウクライナ映画アカデミーから除籍される。
ロズニツァの作品は、フランスのナントで行なわれているロシア映画祭「リヴィウからウラルへ(FESTIVALUNIVERCINÉ ENTRE LVIV ET L’OURAL)」のプログラムに組み込まれていた。ウクライナ映画アカデミーのプレス担当は次のように発言。「セルゲイ・ロズニツァ監督は、自身をコスモポリタン、「世界市民」であると考えていることを一度ならず強調してきました。しかしウクライナが全力で独立を守り抜こうとしている今、一人ひとりのウクライナ人の修辞において主要な概念となるべきは、彼らのナショナル・アイデンティティなのです。ここに、いかなる妥協も中間もありえません。世界の方々には、セルゲイ・ロズニツァ氏をウクライナの文化分野の代表者として認めないようお願いいたします」。

11.00.
ザルツブルグ復活祭音楽祭のディレクター、ニコラウス・バッハラーがオーストリアの新聞Kurierのインタビューで、アンナ・ネトレプコを音楽祭に招待すると発言。「もし個々人に政治的見解の表明を求めるのならば、それは宗教裁判を想起させます。それが許されていいとは思いません!」


3月17日

22.00.
キエフの病院でウクライナ国立歌劇場のアルチョム・ダツィシンが負傷により亡くなった。同僚のタチヤナ・ボロヴィクが自身のSNSで知らせた。アルチョム・ダツィシンは1979年1月26日生まれ。『白鳥の湖』、『くるみ割り人形』、『ジゼル』、『ロミオとジュリエット』などで主要な役を務めた。

20.30.
セルゲイ・ショイグ〔国防相〕が文化大臣オリガ・リュビモヴァに対し「V .A. ゼレンスキーとA. E. ロドニャンスキーをロシア連邦の文化的領域から除外することを審議」するよう要請。書簡の内容は3月17日の公開資料に掲載された。「ロシアのメディア空間の文化面では、ゼレンスキーが参加している映画や番組、アレクサンドル・ロドニャンスキーのプロジェクトが引き続き映し出されているが、それらは国家の指導部が下した決定の実行に寄与するものではない」。

19.19.
ロシア陸軍劇場がロシア軍人を愛国的なビデオクリップで支援。

18.30.
ウクライナ功労芸術家のオクサナ・シヴェツがキエフで亡くなる。1980年から同女優が働いていたキエフ青年劇場のSNSで報じられた。オクサナ・シヴェツが演じた役には、ナターシャ(『三人姉妹』チェーホフ)、エルフ(『風呂』マヤコフスキー)、金髪の女(『良心の独裁者』ミハイル・シャトロフ)、マダム・ジョルジュ(『ひばり』ジャン・アヌイ)がある。

17.00.
ゲオルグ・フリードリヒ・ハース作曲、ロメオ・カステルッチ演出で、ミュンヘンのJa, Maiフェスティバルに参加予定だったオペラ『コマ』のプレミア上演が、2024年に持ち越された。地政学的状況とmusicAeternaオーケストラ〔ペテルブルク〕の参加が不確定のため。楽団の創立者、テオドール・クルレンツィスが同作の音楽監督を務めていた。上演延期の決定にはカステルッチもクルレンツィス自身も同意している、とバイエルン国立歌劇場のインテンダントが発表している(『コマ』はバイエルン国立歌劇場、ミュンヘン・フォルクス・テアター、ミュンヘン・カンマーシュピューレの共同制作)。

14.00.
エルミタージュ美術館館長のミハイル・ピオトロフスキーが世界の美術館館長連盟ビゾ・グループに宛てた書簡を公開。〔ビゾ・グループ(Bizot group)は1992年発足。2002年に「世界の美術館の意義と価値に関する宣言」を発表。ルーヴル美術館、オルセー美術館、メトロポリタン美術館、大英博物館、プラド美術館などが加盟〕
このミハイル・ピオトロフスキーの書簡は、エルミタージュ美術館、プーシキン美術館、クレムリン美術館、トレチヤコフ美術館といったロシアの各美術館館長のビゾ・グループ会員資格の停止のニュースを受けて書かれた。書簡の全文を以下に公開する。
「親愛なるマシューとビゾ・グループ会員の皆様
お手紙ありがとうございます。
ロシアの各美術館も参加した1992年のグループの発足は、国際的なアパルトヘイト克服の重要なシンボルであり、我々の開放性を示すものでした。こうした開放性は、付け加えると、常に国の内外から批判されてきました。今日、この開放性が私たちに背を向けています。その輪は閉じられてしまいました。
私は武力で問題を解決することに反対で、戦争と革命が嫌いです。しかし、この職業は文化の運命と社会における癒しの役割について考えることを必要とします。私は、文化の架け橋が爆破されるのは最後であるべきだと、これまでも述べてきましたし、それを繰り返します。私は冷戦期に私の父やソ連や西側諸国の彼の仲間たちがどのようにそうした架け橋を守り抜いていたかをよく覚えています。今日、私たちがそれらを守れることを証明しなければなりません。
私やロシアの同僚には重要な課題があります。それは、コレクションを保存することであり、そのコレクションの一部は私たちのポリシーである開放性に明確に基づき、国外にあります。国際的な美術館同士の〔コレクションの〕遣取の運命は、概してこの問題がいかに解決されるかにかかっています。そうした遣取を簡便化するために私たちのグループは作られたのですから。私たちが常に友好的に展示品を分かち合ってきたビゾ・グループの同僚たちが理解してくださることを望んでいます。
私たちは「アポカリプス〔ヨハネ黙示録〕」をメインにした、予言のようなデューラーの展示で今年をスタートしました。ヨハネ黙示録の騎士たちは既に私たちと共にいますーー疫病の騎士、戦争の騎士、飢餓の騎士です。しかし私たちは、それが悪魔への決定的な勝利と「新しいエルサレム〔聖書〕」の開門へと続くことを知っています。
エルミタージュであなた方のどなたとでも、オンラインで(オフラインの方が良いですが)お会いできたら嬉しいです」。
エルミタージュのサイトによれば、ビゾ・グループは主要な美術館の館長たちが、展示の遣取の手順と手続きを協議するため定期的に会合する独自のシステムである。同グループは展示品を互いに提供するための規約を策定し、更新している。

9.23.
フランスメディアの情報によると、マリインスキー劇場の若手ダンサーのブラジル人ヴィクトル・カイシェタが劇場を離れ、オランダ国立バレエ団(Dutch National Ballet)に移籍することを決定。マリインスキー劇場の公式サイトにはこの遺跡に関する情報は掲載されていない。


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