凡例
タイムラインはテアトル誌を踏襲し、時系列を遡る形で記している(新しい情報が上)。
訳者による割注は〔〕で記している。
戯曲、小説、上演等の作品タイトルは内容を確認できていない場合、仮置きの日本語訳を記している。
人名におけるアクセントの音引きは、基本的には表記しない。
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ロシア演劇界タイムライン(2022年2月24日-)10ヶ月目
Театр.誌原文(10ヶ月目)
(翻訳:伊藤愉)
▶︎公開:12月24日23:50
▶︎更新:1月16日22:17
2月24日、テアトル誌はウクライナ領の状況に関連するタイムラインの記録を開始した。
*Roscomnadzor(ロシア連邦通信・IT・マスメディア監督庁、Federal Service for Supervision of Communications, Information Technology and Mass Media)はロシア軍によるウクライナ各都市への砲撃やウクライナ民間人の犠牲関する情報、および進行中の作戦を攻撃・侵略・宣戦布告と呼ぶ資料は現実に即していないとみなしている。
編集部は週ごとのタイムラインを月ごとのタイムラインに切り替えることに決めた。だが、私たちは近いうちにこうしたタイムラインを公開する必要がまったくなくなることを望んでおり、それを信じている。
12月21日
22:20.
ナタリヤ・サツ劇場は、芸術創造発展センター「芸術の鏡(«Зеркало искусства»)」と共同で、「ルガンスク、ドネツク、ザポロジエ州、ヘルソン州から避難し、一時的にモスクワ州に居住している家族」のためのキャンペーンを実施した。プロジェクト「演劇でつながって(«Объединяя театром»)」は連邦プログラム「創造的人々(«Творческие люди»)」(ロシア文化省が支援する国家プロジェクト「文化」)の一環である。
「演劇でつながって」は「児童養護施設の子供たちは特別軍事作戦エリアから避難してきた家族とともに行なわれるワークショップやトレーニング」のコースである、と劇場のサイトで発表されている。こうした演劇教育マラソンの結果、首都のナタリヤ・サツ劇場で祝祭的な演劇的対話が行なわれ、モスクワ州議会の社会評議会もその運営に加わった。
「若き演劇ファンたちの瑞々しい喜びに溢れた反応を目にして、演劇芸術に直接触れることで子どものリハビリテーションを提供するプログラム「演劇でつながって」は、子どもたち、未成年の子たちの文化的同化や社会化を実際的に促進していることが明らかになりました」と劇場サイトのプロジェクトに関するアナウンスは締めくくられている。
12月20日
13:50.
「クラスヌイ・ファケル」劇場でチモフェイ・クリャビンの演出作品の上演が中止される。
昨日12月20日にノヴォシビルスクの劇場「クラスヌイ・ファケル」のサイトに『オネーギン』と『野鴨』が中止になったとの情報が掲載された。
「親愛なる観客のみなさん! 残念ながら、1月と2月の上演中止をお知らせしなければなりません」と記されている。
「技術的な理由で、『オネーギン』と『野鴨』の上演は中止となり、また小舞台での『太陽の子どもたち』も上演されません。予定されていた日時には、次の作品が上演されます。
1月15日、『オネーギン』の代わりに喜劇『祝日の代理人(«Агенты праздников»)』
1月19日、『野鴨』の代わりにヴォードヴィル『クレチンスキーの結婚』
2月1日、『太陽の子どもたち』の代わりに探偵物『検査官ラッフィングの奇妙な夕食』
2月10日、11日、『オネーギン』と『野鴨』の代わりに『太陽の子どもたち』
中止となった作品のチケットは購入場所で払い戻しが可能です。問い合わせに対しては劇場はいつでもお答えいたします。
劇場からの公式のアナウンスによると、上演は「技術的な理由」により中止となった。劇場のレパートリーからは、やはり「技術的な理由」で『三人姉妹』が消えている。劇場の広報担当はアナウンスが正しいことを発表している。
なお、『野鴨』は「ゴールデンマスク賞2023」にノミネートされており、同賞の広報担当は本誌編集部に対して、劇場がコンクールに出品する準備ができている場合は、審査対象になる、と述べた。『野鴨』は「ノヴォシビルスク・トランジット」フェスティバルでトムスク、ケメロヴォ、ノヴォクズネツク、バルナウルの各劇場で、またクラスノヤルスクの「シアター・シンドローム」フェスティバルで上演されていた。
12月16日
21:30.
EUは〔ロシア文化大臣の〕オリガ・リュビモヴァに対する制裁を導入。
12月16日、EUはロシア共和国とその国民に対する第9次制裁パッケージを公表した。ロシア文化大臣のオリガ・リュビモヴァを含む、組織、私人、公人に対して、経済的・人的制限が課される。
オリガ・リュビモヴァは2020年1月21日からロシア文化大臣をを務めている。
12月16日には演劇・映画センター代表の映画監督ニキータ・ミハルコフも制裁リストに加えられた。
12月15日
18:00.
プーチン大統領の命によって、財団「善行の輪(«Круг добра»)」の評議員会から、チュルパン・ハマトヴァ、クセニヤ・ラッポポルト、そして慈善財団「老いを喜びに(«Старость в радость»)」ディレクターのエリザヴェタ・オレスキナ、国家院健康維持委員会メンバーのラリサ・フェチナが外された。
この大統領令は、法律情報の公式ポータルサイトに掲載されている。また文書の中では、評議員会の構成員には、宇宙飛行士のオレグ・ノヴィツキー、子どもオンブズマンのマリヤ・リヴォヴァ=ベロヴァ、国家院議員のヴラジスラフ・トレチヤクが入っている。
財団「善行の輪(«Круг добра»)」は重篤な病に苦しんでいる子どもたちを支援するために2021年に設立された。
12月14日
23:00.
ウクライナ人映画監督のセルゲイ・ロズニツァが演劇の演出家としてデビュー。ヴィリニュス青年劇場で、ジョナサン・リテルの小説『慈しみの女神たち(Les Bienveillantes)』(このタイトルは古代ギリシャの復讐の女神エリーニュエスに因んでいる)原案の舞台『エリーニュエス(Эринии)』を演出した。大規模な初演では30名ほどの役者が登場し、上演は5時間半に及び、台本は演出家自身がこのカルト的な書籍に基づいて執筆した。
ゴンクール賞を受賞した歴史小説『慈しみの女神たち』は、一人称で書かれたホロコーストと第二次世界大戦に関するナチ将校の回想である。とりわけ、ウクライナ、コーカサス、スターリングラード、ベルリン、ヨーロッパ各地の強制収容所がその舞台となる。ロズニツァによれば、第三帝国の終焉が全体主義体制そのものの終焉ではなかった以上、第二次世界大戦の悲劇的な出来事は、この先もいま現在にも反復され継続されうるという「根本的に重要な問題」をその演出で意味づけようとしていたという。「この全体主義体制は、東欧諸国を含め、占領することのできた領土全体に広がっていった。いま現在もそれは存在し続けているのです」。
22:00.
リマス・トゥミナスはテルアビブのGesher Theaterで『振り返るな(«Не смотри назад»)』を上演。当初、この上演はアレクサンドル・バルグマンが発案し、彼自身が手がける予定だった。しかし、Gesher Theaterディレクターのレナ・クレインドリナによれば、秋には、彼は「健康上の理由で作業を中断せざるえなくなった」。トゥミナスはそのタイミングですでに『アンナ・カレーニナ』のリハーサルにきており(初演は1月末に予定されていた)、劇場からの依頼で「なんとかそのリハーサルを引き継ぐ」こととなった。『振り返るな』は(故)ファウスタス・ラテナスに捧げられており、彼の音楽がこの「演劇的田園詩」でも使われている。
本作品はまたとないプロジェクトとなった。これは25年間で初めてのロシア語での上演となる(春以降はヘブライ語で演じられる)。「この作品には俳優や舞台スタッフなど、数多くの帰還者たちが関わっています。わたしたちにとって極めて重要なのは、この簡単ならざる時にイスラエルに移住してきた彼ら全員が、わたしたちの劇場でくつろげることです」とクレインドリナはコメントしている。初演に出演するのは、アナトリー・ベールイ、ミハイル・ウマネツ、ニキータ・ゴリドマン=コフ、ニキータ・ナイヂョノフ、またGesher Theaterのスター俳優であるイスラエル(サーシャ)・デミドフ、リリアン・シェリ・ルートの他、これまでロシア語で演じたことのないレナ・フライフェリド、ネタ・ロト、ニル・クナアンがいる。
『振り返るな』は〔ジャン・〕アヌイの『ユリディス』を原作とし、駅で偶然出会ったストリート・ミュージシャンであるオルフェと女優ユリディスの物語で、創造、苦しみ、愛の関係に関する思索である。トゥミナス以外に、プログラムで「制作チーム」にまとめられたクレジットには、ロイ・ヘン、グレプ・フェリシチンスキー、イウヂト・アアロン、カーチャ・ソソンスカヤ、マクシム・ロゼンベルグ、ミハイル・ヴァイスブルド、エヴゲニヤ・ナウモヴァ、ダリヤ・シャミナの名が記されている。
20:30.
第一回前線慰問団は戦闘区域での任務を始めた。ロシア国防省のプレス・リリースでは次のように語られている。「前線慰問団の基本的な任務は、特別作戦が行なわれている地域の戦闘員たちに文化芸術的な奉仕活動の提供、軍隊のフォークロアの蒐集、戦闘状況下でのアーティストのまたとない経験の蓄積である。第一回前線慰問団の団長であるヴラジスラフが指摘するように、大祖国戦争の時には、2000ほどの慰問団が組織された。そのため、現在特別軍事作戦が行なわれている領域で同様のものが作られるのは理にかなっている」。
プレス・リリースの全文はロシア国防省のサイトに掲載されている。
第一回前線慰問団は、2022年11月に統合軍集団に参加した。構成員には、ミュージシャンで「アクヴァリウム(アクアリウム)」のバイオリニスト、国際バロック音楽祭「EARLYMUSIC」の創設者で芸術監督のアンドレイ・レシェチン、「ソヴレメンニク」劇場の俳優エヴゲニー・パヴロフ、「ノヴァヤ・オペラ(新オペラ)」のメンバーなどがいる。
前線慰問団の第一回コンサートはマリウポリの統合軍集団の職員たちの前で行なわれた。
以前、本誌で 報じたように、ミュージシャンのアンドレイ・レシェチンは、ウクライナとの軍事行動が行なわれている地域のロシア軍に志願することを表明。彼はペテルブルグの文化委員会からの支援なしには自らの人生で重要なことができないからだと説明した。「文化委員会はフェスティバルに一コペイカも出さず、私の仕事は完全にダメになった。私の仕事は基本的に、仕事がある場所にいき仕事をするというものだ」とレシェチンはフォンタンカ紙に語っていた。
12月12日
12:00.
ヴァフタンゴフ劇場はルガンスクで『クローフィッシュの叫び(«Крик Лангусты»)』を上演する。12月19日ルスペカエフ記念ルガンスク・アカデミー・ロシア・ドラマ劇場の舞台で、ヴァフタンゴフ劇場はミハイル・ツィトリニャク演出のユリヤ・ルトベルグとアンドレイ・イリインの二人芝居『クローフィッシュの叫び』を上演する。連邦プログラム「グランド・ツアー」の一環として二回の無料上演となる。
11月30日
21:50.
ヤロスラヴリに「俳優の家」が開館。9月に亡くなったヴォルコフ劇場の芸術監督セルゲイ・プスケパリスの名前が冠せられる予定。
ヤロスラヴリのフョードル・ヴォルコフ劇場を2019年から率いていたセルゲイ・プスケパリスは、9月20日にドンバスに向かうはずだった装甲されたFord Transitで交通事故に遭い、亡くなった。11月17日に芸術監督のポストを、ヴォルコフ劇場の俳優で、演出家、教育者のヴァレリー・キリロフが担うことが明らかになった。このキリロフがヤロスラヴリで「俳優の家」のための場所を率先して探していた(2018年末にロシア大統領が当該任務を地方政府に出していた)。キーロフ通りにある選び出された建物(18世紀末に建造)には大規模な修繕工事が施された。タス通信によると、「俳優の家」設立には連邦予算と地方予算から125,700,000ルーブルが支出された。
「俳優の家」開館に向けて11月30日、現在のヴォルコフ劇場芸術監督のヴァレリー・キリロフは次のように述べた。「我々が、ここにいるあなた方と、演劇人同盟の人々とともに「俳優の家」の名称に関するイニシアチブに賛同したのは正しいことでした。ヤロスラヴリの俳優の家はセルゲイ・プスケパリスの名前を冠することになります」。
10:00.
ロシア文化省は2023年に映画制作の国家財政支援を行なう17の優先テーマのリストを公表した。このリストには、とりわけ11月9日に承認された「ロシアの伝統的な精神・道徳的価値を維持し強化するための国家政策の基本方針」が影響を与えている。また優先テーマに含まれるものは、文化大臣のオリガ・リュビモヴァによれば、「今般の現実においてわれわれが強調する必要があると考えているもの」も含まれている。それはつまり「ナチズムとファシズムの現代的現れへの抵抗。特別軍事作戦下でのロシア兵の英雄的行為(ヒロイズム)と献身性の促進」、そして「ロシア軍への従事の促進。軍隊への支援(前線慰問団、志願兵、ボランティア)を巡る社会の団結。歴史的な出来事や新しい歴史を通じて軍人という職業の立場の向上」、「ロシア国民の精神的・道徳的、愛国的教育。過激主義への抵抗。現代の若者のイメージ、行動規範、創造的動機付け。精神的なリーダー。ロシアや独立国家共同体の国々におけるボランティア的活動、有志活動の国際的な促進」、「アングロ・サクソン世界の国々のネオ・コロニアリズム的政策。欧州の堕落。多極化する世界の形成」、「ロシアの歴史的地域としての小ロシア」である。
11月29日
00:00.
「オペラ版オスカー賞」とも言われる国際的なOperaAwardsは2022年はリヴィウ・ナショナル・アカデミー歌劇場とオデッサ歌劇場に2022年オペラ劇場を授賞した。2012年から実施されているOperaAwardsでは初めて二劇場の同時受賞となった。この賞は、「尋常ならざる状況での優れた活動に対して」(すなわち、ウクライナ領域における戦時下での活動継続)という文言とともに与えられた。授賞式は2021年に受賞したマドリードのテアトロ・レアル(王立劇場)で行なわれた。
11月28日
19:00.
ミハイロフスキー劇場はアクション「我々はともにいる(#МЫВМЕСТЕ)」を実施。観客は劇場アーティストたちのガラ・コンサートと、マリウポリの放送局「サンクトペテルブルグ」が制作したドキュメンタリー映画『姉妹都市(«Город-побратим»)』(演出・編集ドミトリー・ヴォロジン)に観客を招待した。「これはサンクトペテルブルグがマリウポリと姉妹都市提携を結んだ後の、報告書の一種のようなものである」とタス通信はイベント企画者のリンクを掲載して報じた。
11月24日
19:00.
マールイ劇場と国防省は協働の協定に署名。共同プロジェクト『時代の対話 歴史のページを通じて(«Диалог времён. По страницам истории»)』は劇場レパートリー の中から歴史劇を観賞し、若い観客たち、招待された政治学者や歴史学者たちが俳優や演出家と議論する。
マールイ劇場はすでに同様のイベントを二つ実施している。『大きなトロイカ(1945年のヤルタ会議)〔«Большая тройка (Ялта 45)»〕』と『ピョートル一世』では軍事大学生を含むモスクワの大学生たちや、国防省文化局長のアルチョム・ゴルヌイが招待された。
マールイ劇場ディレクターのタマラ・ミハイロヴァはルガンスク・アカデミー・ロシア劇場への支援についても語っている。「……私たちはルガンスクの同僚たちを援助することを決定しました。契約書にサインをし、彼らに劇場用のバスを購入するために送金します。これは先の休日に実施したチャリティ上演で集めた資金です。加えて、我々の劇場との継続的な協働に関しても話し合いました。ロシア国防省文化局との本日の締結に関しては、さっそく12月19日にこの契約に沿って『雪の女王』に観客を招待し、そのチケットの収益すべてをチャリティ目的に充てる予定です」。
17:00.
ドミトリー・ヴォルコストレロフとボリス・パヴロヴィチの名前が「ウラル・オペラ・バレエ」〔エカテリンブルグ国立アカデミー・オペラ・バレエ劇場〕サイトの上演情報のクレジットから名前を削除される。2022年11月にボリス・パヴロヴィチはエカテリンブルグの劇場でオペラ『チェレヴィチキ』に出演し、その一年前にはドミトリー・ヴォルコストレロフが同劇場で『エヴゲニー・オネーギン』を演出していた。
これ以前には、彼らの作品は主要な演劇フェスティバルから排除されていた。ドミトリー・ヴォルコストレロフの『悲しき神々の委員会』とボリス・パヴロヴィチの『ユディト』は「運営上の理由」により「ゴールデン・マスク賞2022」での上演を中止されていた。同様に、ボリス・パヴロヴィチの『ツィオルコフスキー』は「バルチスキー・ドム2022」のプログラムから除外され、運営側からの理由の説明もなかった。2022年3月1日にドミトリー・ヴォルコストレロフはモスクワのメイエルホリド・センターの芸術監督のポストを解任されている。
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