凡例
タイムラインはテアトル誌を踏襲し、時系列を遡る形で記している(新しい情報が上)。
訳者による割注は〔〕で記している。
戯曲、小説、上演等の作品タイトルは内容を確認できていない場合、仮置きの日本語訳を記している。
人名におけるアクセントの音引きは、基本的には表記しない。
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ロシア演劇界タイムライン(2022年2月24日-)16ヶ月目
Театр.誌原文(16ヶ月目)
(翻訳:伊藤愉)
▶︎公開:2023年10月20日01:17
▶︎更新:
2月24日、テアトル誌はウクライナ領の状況に関連するタイムラインの記録を開始した。
*Roscomnadzor(ロシア連邦通信・IT・マスメディア監督庁、Federal Service for Supervision of Communications, Information Technology and Mass Media)はロシア軍によるウクライナ各都市への砲撃やウクライナ民間人の犠牲関する情報、および進行中の作戦を攻撃・侵略・宣戦布告と呼ぶ資料は現実に即していないとみなしている。
編集部は週ごとのタイムラインを月ごとのタイムラインに切り替えることに決めた。だが、私たちは近いうちにこうしたタイムラインを公開する必要がまったくなくなることを望んでおり、それを信じている。
6月18日
20:00.
スヴェトラナ・ペトリイチュクの夫で劇作家のユーリー・シェフヴァトフ
は自身のSNSで、彼女の戯曲『美しき鷹フィニスト』のリーディング公演とジェーニャ・ベルコヴィチによる同名の上演の録画上映が、8月末までの期間に世界6カ国で実施されることを発表した。彼は、「一つとして企画に関わっているものはなく」、すべて彼ら自身が自発的に企画しているものだと述べている。
6月19日にパリで『美しき鷹フィニスト』の舞台映像が上演後のトーク込みで上映される(舞台映像にはフランス語字幕がつく)。また6月23日にはアヴィニョンでペトリイチュクの戯曲の(フランス語での)リーディングがヴィクトリヤ・プリヴァロヴァの演出で行なわれる。ドイツではリーディングを聴く機会が3回ある。6月25日に、キリル・セレブレンニコフの『バロッコ』上演後にハンブルグのThalia Theaterの俳優たちが『フィニスト』をドイツ語で朗読し、7月6日にはベルリンでオレグ・フリストリュブスキー演出でドイツ語のリーディングが行なわれ、7月7日にも同じくベルリンで英語でのリーディング上演がある(演出家はマリヤ・サピジャク)。
また、6月29日にはプラハで(出演者のなかには女優のユリヤ・アウグもいる)、8月には(エストニアの)ナルバの Vaba Lava劇場でリーディングが行なわれる。8月26日はフィンランドの都市ユバスキュラで同作品の舞台映像の上映が計画されている。そのほか、6月26日にはARTиШОК劇場(アルマトィ、カザフスタン)で『フィニスト』の2回目のリーディングが行なわれる。第一回は5月26日に実施されており、同劇場は ペトリイチュクが勾留されている間は月に1回、さまざまな演者によって実施される。また『美しき鷹フィニスト』のリーディングはすでにイルホム劇場(タシケント、ウズベキスタン)とストックホルムの王立ドラマ劇場(Dramaten)で実施されている。
6月には独立系亡命出版社Freedom Lettersがスヴェトラナ・ペトリイチュクの戯曲集『トゥアレグ』を刊行した。同書にはペトリイチュクが書いた7つの演劇用のテキストが収録されていて、そのなかに『美しき鷹フィニスト』も含まれている。
5月4日、劇作家のスヴェトラナ・ペトリイチュクと演出家のジェーニャ・ベルコヴィチが拘束され、5月5日には2ヶ月間の勾留が決定された。罪状は、演劇カンパニー「ソソの娘たち」による作品『美しき鷹フィニスト』の作者たちは刑法205条2項「テロ活動実施への公的な呼びかけ、テロリズムの公的な正当化、もしくはテロリズムのプロパガンダ」。
6月17日
18:30.
ノヴォシビルスクでクセニヤ・ラポポルトとアレクセイ・セレブリャコフが出演する『アインシュタインとマルガリータ』の上演が中止となった。同上演は6月20日に鉄道文化会館の舞台で行なわれるはずだった。しかし上演の三日前に〔チケット販売サイトの〕«Кассы.ру»上に理由の説明なしにツアーの中止の情報が掲載された。現地メディアの情報によると、同上演に対して「父親評議会(«совет отцов»)」というノヴォシビルスクの活動家たちが反対を表明した。同団体はこれ以前にもラッパーのLoqiemeanのコンサートを中止させていた。活動家たちは、俳優たちの立場を「反ロシア的」と呼び、セレブリャコフがカナダに住んでいることを力説して、検察に訴える予定でいた。同団体代表のセルゲイ・マイロフは「ロシアを侮辱し、国民を「腰抜け」と罵る人間たちが参加している芝居の企画者たちには多くの疑問がある」と言明した。彼はこれらの俳優たちには「厳しい措置」がとられるべきだと考えている。
これ以前に、同作品はペテルブルグのバルチスキー・ドムでの上演が2023年4月14日当日に中止され、またエカテリンブルグでは2023年の5月18日の上演が中止となっていた。
『アインシュタインとマルガリータ』は、アレクサンドル・ゲリマンの戯曲『アリマル』に基づくアレクサンドル・マリーンの演出作品で舞台プロダクションENTRACTEの企画である。『愛と原爆に関する芝居』の初演は2022年6月12日にモスクワで行なわれていた。
6月5日
20:00.
タシケントのイルホム劇場は、スヴェトラナ・ペトリイチュクとジェーニャ・ベルコヴィチを支持し、『美しき鷹フィニスト』のリーディング公演を実施した。ポータルサイトの『フェルガナ・メディア』が報じた。
演出家のマクシム・ファデエフは観客に次のように語った。「私たちがリーディングを行なったのは、私たちが人間だからで、できる限りより多くの人々がこのことを知ってくれるようにだ。私たちが手助けできる唯一のことは、ジェーニャ〔・ベルコヴィチ〕とスヴェタ〔・ペトリイチュク〕の身に起こっていることすべてを公にすることである。私はジェーニャを知っている。彼女は内面に攻撃性など持ち合わせていない、もっとも誠実で優しい人間である。彼女の逮捕の報に接したとき、2月24日のときと同じくらいのショックを受けた。私にとっては両者はほとんど同じことだった」。
ファデエフによれば、急進的イスラム主義者たちと結婚し、シリアにいる彼らのところに向かう女性たちを描いたペトリイチュクの戯曲のオリジナルテキストを使っているとのことである。ジェーニャ・ベルコヴィチの上演にはさらにドキュメンタリー的なモノローグが含まれていた。
リーディングの参加者たちと演出家は、ペトリイチュクの戯曲にはベルコヴィチの上演と同じくテロリズムのプロパガンダはなく、「人間に関する対話」があるだけだと確信している。
これ以前の5月26日、『美しき鷹フィニスト』のリーディングは、ペトリイチュクが作品を提供していたアルマトィのARTиШОК劇場で実施された。演出家のガリーナ・ピヤノヴァは本誌に対して『フィニスト』のリーディングは毎月俳優を変えて、スヴェトラナ・ペトリイチュクとジェーニャ・ベルコヴィチが勾留されている間は継続すると語った。
2023年5月4日、劇作家のスヴェトラナ・ペトリイチュクと演出家のジェーニャ・ベルコヴィチがテロリズム正当化の疑いで拘束された(刑法205条2項)。刑事告発の理由となったのは『美しき鷹フィニスト』。5月5日、ベルコヴィチとペトリイチュクは2ヶ月間の勾留となった。
18:00.
ウラジオストクの演劇祭「メタドラマ」は名称を変更し、同フェスティヴァル創設者で劇作家のヴィクトリヤ・コスチュケヴィチはその運営を解任された。
本件はコスチュケヴィチが自身のSNSに投稿した。
現在、同演劇祭は「全ロシア現代演劇フェスティヴァル=ラボ〈潜水〔Погружение〕〉」と名付けられ、ヴィクトリヤ・コスチュケヴィチ抜きで実施される。
同時に、演劇祭のフォーマットとコンセプトは以前のままである。〈潜水〉のプログラムは青年劇場のサイトで発表された。ウラジオストクのさまざまな劇場で現代テキストの芝居が上演され、多様な演劇的催しが行なわれる(散策型演劇、コンサート演劇、ツアー演劇)。フェスティヴァルは2023年7月7日から23日に実施。
太平洋国際現代劇作フェスティヴァル「メタドラマ」は、ウラジオストクの青年劇場を中心に、劇作家ヴィクトリヤ・コスチュケヴィチの主導のもと2018年に設立した。
5月30日
18:00.
スヴェトラナ・ペトリイチュクが「テロリズム的および過激的傾向の犯罪を犯す可能性のある人物」として登録される。
ペトリイチュクの夫である劇作家のユーリー・シェフヴァトフによれば、彼女はこの件を5月30日の審理の後に知らされたという。5月5日、モスクワのザモスクヴォレツキー地区裁判所は、刑法205条2項「テロ活動実施への公的な呼びかけ、テロリズムの公的な正当化、もしくはテロリズムのプロパガンダ」の罪に問われたジェーニャ・ベルコヴィチとスヴェトラナ・ペトリイチュクの身柄拘束措置としての2ヶ月間の勾留を決定。5月30日、モスクワ市裁判所でザモスクヴォレツキー裁判所のベルコヴィチとペトリイチュクへの判決に対する控訴審が行なわれた。その結果、両者に関して変更はなかった。審理の後、ペトリイチュクは「テロリズム的および過激的傾向の犯罪を犯す可能性のある人物」として予防的登録がなされたことを記した文書を提示された。留置所にいるペトリイチュクにとってこれは拘置条件の変更と管理の強化を意味しうる。
法務省によって承認された「矯正施設に収容されている人物の犯罪予防に関する通達」によれば、「被疑者、被告人または有罪判決を受けたものを予防登録しうる根拠となるのは、当該人物が犯罪を犯す意図や周囲の人物への悪影響といったことに関する信頼しうる確認済みのデータ、あるいは医療鑑定や精神鑑定である。被疑者、被告人または有罪判決を受けたものを予防登録する際の必要な資料の収集および作成は、予防登録を提起した矯正施設の小ユニットの職員の義務である」と記されている。
スヴェトラナ・ペトリイチュクの弁護団は、彼女を予防登録することとした委員会の決定に対して上訴する意向である。
14:15.
スヴェトラナ・ペトリイチュクは留置所に収容のまま。詳細はこちら。
12:14.
ジェーニャ・ベルコヴィチの身柄拘束は変更なし。詳細はこちら。
5月25日
21:00.
ハンブルグのThalia Theaterでキリル・セレブレンニコフの作品『バロッコ』の改訂版が初演を迎えた。インターナショナルな座組での演出となった本作品は劇場のレパートリーに入った。『バロッコ』はセレブレンニコフ自身の劇作でオペラ歌手、音楽家、ダンサー、パフォーマーを統合する一種の総合芸術(Gesamtkunstwerk)である。ゴーゴリ・センターでの初演は2018年12月25日。『バロッコ』はセレブレンニコフが自宅軟禁中に書き上げ発表した唯一の作品だった。『バロッコ』は2020年4月にThalia Theaterで上演されるはずだったか、この計画はロックダウンによって頓挫していた。ハンブルグ版『バロッコ』にはゴーゴリ・センターでの上演時に参加していた俳優たちも何人か(オヂン・バイロン、スヴェトラナ・マムレシェヴァ、ヤン・ゲー、ナデジダ・パヴロヴァ、ダニイル・オルロフ)出演している。
ハンブルグ版『バロッコ』の初演パンフレットには2023年5月7日付けのキリル・セレブレンニコフのテキストが掲載されている。そのなかで彼はモスクワで逮捕されたジェーニャ・ベルコヴィチとスヴェトラナ・ペトリイチュクの支持を表明している。とりわけ同テキストでは次のように語られている。「自由な世界にいる人々みなにジェーニャ・ベルコヴィチとスヴェトラナ・ペトリイチュクのことを知ってもらう必要がある。(中略)世界の人々にせめて彼女たちの名前を知ってもらいたい! 彼らに彼女たちの戯曲を読んでもらいたい! それを可能にしたい、せめてそれだけでも!」
15:50.
ロシアのムスリム宗務局(ДУМ)は、ジェーニャ・ベルコヴィチとスヴェトラナ・ペトリイチュクの事件で専門家所見執筆者の一人であったロマン・シランチエフによる民族間の対立を煽った発言を調査するよう請求したロシア・ユダヤ人会議(РЕК)を支持。5月17日、ロシア・ユダヤ人会議は捜査委員会トップのアレクサンドル・バストルィキンに対応を要請していた。
ムスリム宗務局の副局長で神学博士のダミル・ムヘトヂノフ(Дамир Мухетдинов)はロシア・ユダヤ人会議ユーリー・カンネル議長に宛てた書簡のなかで次のように記している。「我々はアレクサンドル・バストルィキンに宛てた、民族間の対立を煽ったシランチエフ氏の発言を、事実にそくして調査し、法律に則ってその責任を問うことを求めたロシア・ユダヤ人会議の請求を完全に支持します」。さらにコメルサント紙が引用した同文書では、「憎悪や敵意を煽ることを目的とした行為や、性別、人種、国籍、言語、出自、宗教などを理由に、個人または集団の尊厳を傷つける行為は許されない」と強調されている。
ロシア・ユダヤ人会議はロシア・ムスリム宗務局からの書簡を調査資料に加えるよう捜査委員会に送付した。
5月24日
20:00.
ストックホルムの王立ドラマ劇場(Dramaten)でスヴェトラナ・ペトリイチュクの戯曲『美しき鷹フィニスト』のリーディング公演が実施された。演出家は王立劇場のプロジェクトDramaten.docの企画者ドミトリー・プラクス。上演はニリス・ホカンソン(Nils Sture Håkanson)の翻訳で、スウェーデン語で行なわれた。同リーディング上演はスヴェトラナ・ペトリイチュクとジェーニャ・ベルコヴィチを支援するために行なわれた。5月4日、劇作家のスヴェトラナ・ペトリイチュクと演出家のジェーニャ・ベルコヴィチが拘束され、5月5日には2ヶ月間の勾留が決定された。罪状は、演劇カンパニー「ソソの娘たち」による作品『美しき鷹フィニスト』の作者たちは刑法205条2項「テロ活動実施への公的な呼びかけ、テロリズムの公的な正当化、もしくはテロリズムのプロパガンダ」。
5月15日、ARTиШОК劇場(アルマトィ)でもスヴェトラナ・ペトリイチュクの戯曲『美しき鷹フィニスト』のリーディング公演が告知された。同公演は同劇場本舞台で5月26日に実施される。演出家ガリナ・ピヤノヴァによると、『フィニスト』のリーディングは、ペトリイチュクが勾留されている間は月に1回、さまざまな演者によって実施されるという。
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