凡例
タイムラインはテアトル誌を踏襲し、時系列を遡る形で記している(新しい情報が上)。
訳者による割注は〔〕で記している。
戯曲、小説、上演等の作品タイトルは内容を確認できていない場合、仮置きの日本語訳を記している。
人名におけるアクセントの音引きは、基本的には表記しない。
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ロシア演劇界タイムライン(2022年2月24日-)23ヶ月目
Театр.誌原文(23ヶ月目)
(翻訳:伊藤愉)
▶︎公開:2024年5月22日7:34
▶︎更新:
2月24日、テアトル誌はウクライナ領の状況に関連するタイムラインの記録を開始した。
*Roscomnadzor(ロシア連邦通信・IT・マスメディア監督庁、Federal Service for Supervision of Communications, Information Technology and Mass Media)はロシア軍によるウクライナ各都市への砲撃やウクライナ民間人の犠牲関する情報、および進行中の作戦を攻撃・侵略・宣戦布告と呼ぶ資料は現実に即していないとみなしている。
編集部は週ごとのタイムラインを月ごとのタイムラインに切り替えることに決めた。だが、私たちは近いうちにこうしたタイムラインを公開する必要がまったくなくなることを望んでおり、それを信じている。
1月22日
12:00.
ボリショイ劇場前支配人ヴラジミル・ウリンが「モスクワ芸術座学校の支援および発展」基金の代表に就任。
1月21日
14:00.
新しい「ゴールデン・マスク」は2024年の審査員団を公表。
1月19日
19:00.
ロシア演劇人同盟評議会で同盟のドネツク地方支部の創設が承認された。本件に関して演劇人同盟のサイトでは次のように述べられている。「新たに設立されたロシア演劇人同盟のドネツク地方支部の国家登録に関して、同地に在住および勤務するロシア演劇人同盟会員による総会の決定が承認されました。私たちの演劇の家族が増えました! 現在私たちロシア演劇人同盟は78の地方支部を数えます」。
同会議では「ゴールデン・マスク2024」の審査員団と専門家会議(2023-2024シーズン)も承認され、また今後、劇場は作品を「ゴールデン・マスク」賞に申請する際には、「申請書にロシア演劇人同盟地方支部理事会の決定と地方文化機関が演劇賞への作品作品の応募を支持する推薦書を添付」する必要があることが決定された。「ゴールデン・マスク2024」の審査員団には、ブロヴン記念ドネツク国立アカデミー音楽ドラマ劇場の総支配人兼芸術監督のナタリヤ・ヴォルコヴァが入っている。
1月18日
18:00.
独立非営利団体「ゴールデン・マスク演劇祭」(近年の演劇祭組織団体)は特別企画「子どものための週末(«Детский Weekend»)」のプログラムを公表した。同企画は3月8日から4月14日に独立フェスティヴァルとして行なわれる。モスクワの会場では、児童・未成年者らを対象としたロシア国内の作品が11演目上演される。
1月16日
15:00.
連邦管轄のロシア国内の劇場がロシア文化省から国家的課題の計画変更に関する文書を順次受け取っているとのこと。同文書では「数的指標から質的指標へ」の移行が記され、動員数に代わり、「伝統的なロシアの精神的・道徳的価値観を目指した作品の創作」が問われることになる。
各劇場は、2022年11月9日に署名されたプーチン大統領令第809号の文書「ロシアの伝統的な精神的・道徳的価値観の保護と強化という国家政策の基盤の確立」(詳細はこちら)に準じて、「いかなる価値観にそれぞれの作品が向き合っているか」をはっきりさせるよう求められている。ロシアの精神的・道徳的価値観に関する国家政策の基盤によれば、「伝統的な価値観には、生命、尊厳、人権と自由、愛国心、公民意識、祖国への奉仕とその運命への責任、高い道徳的理想、堅固な家族、創造的な労働、物質性に対する精神性の優位、ヒューマニズム、善良さ、公平性、集団主義、助け合いと互いの尊重、歴史的記憶と世代の継承性、ロシアの諸民族の一体性が含まれる」。
「基盤」文書の第一版の草案は、2022年1月21日にロシア文化省が公開審議会に提出した。文書作成者たちの考えによれば、「過激派組織やテロリスト組織の活動、アメリカやその同盟国、多国籍企業、外国の非営利団体らの活動」によって脅かされている伝統的価値観を保護するための喫緊の対策が求められているという。
同草案には演劇界が激しく反発し、その当時ロシア演劇人同盟の代表だったアレクサンドル・カリャギンは、同草案は全面的な検閲の導入であると発言した。ロシア連邦社会評議会での審議の際、草案作成者の一人であるリハチョフ記念ロシア文化遺産・自然遺産研究所所長のヴラジミル・アリスタルホフは、「基盤」に反対を表明した国内の演劇人、芸術監督、ディレクター、演出家、職員たちを「寄生虫」と名指した。2月14日、ロシア文化省は草案の公開審議を停止すると発表していた。
01:07.
『コメルサント』紙は2023年11月末に実施された専門家会議の詳細を公開した。同会議に基づいて、『美しき鷹フィニスト』のテキストと上演におけるテロリズムの正当化の罪(ロシア刑法205条2項2号)を問われている演出家ジェニャ・ベルコヴィチと劇作家スヴェトラナ・ペトリイチュクに関する捜査が現在行なわれてる。
これまで「過激派」関連の事件を扱ってきたロシア連邦保安庁スヴェルドロフスク州局の上級刑法学者であるスヴェトラナ・モチャロヴァが新たな結論を下したとのこと。同氏は、被告人たちが戯曲や上演の中で、「少女や女性たちにとって興味をひき、魅力的であるように」、意図的に「テロリストのロマンチックなイメージ」を作り出したと主張し、またテキストが「明らかにネガティブにロシア人男性を描き出している」ことを複数回にわたり指摘した。さらに、同専門家は戯曲で言及されているシャリーアの結婚は「様々なポリアモリーの形態を暗示し」ており、「女性が伝統的な家族生活の道筋に戻ることが不可能であることを実質的に前提としている」と言明した。
1月12日
20:00.
アレクサンドリンスキー劇場は一時的にボリス・アクーニン*の戯曲によるヴァレリー・フォーキン演出『1881』の上演を取りやめる。同作は2024年1月12、13、14日に上演されるはずだった。現在、劇場サイトには上演日時は記載されていない。チケット購入者には上演中止と返金を知らせるメールが送付された。この件はSNSでペテルブルグ立法議会議員のボリス・ヴィシネフスキーが発表した。『1881』はゴールデンマスク賞2024で10項目ノミネートされていた。
2023年12月にロシア・アカデミー青年劇場(РАМТ)はレパートリーからボリス・アクーニンの作品を原作とするすべての演目を取り下げた。モスクワ・グベルンスキー劇場も同作家の小説を原作とする『ファンドーリンの捜査』の上演を中止した。
* 12月18日、ロシア金融監視委員会はボリス・アクーニンをテロリスト・過激派リストにリストアップした。同作家は、テロリズムの公的な正当化およびロシア軍に関する明らかに虚偽の情報の拡散(ロシア刑法205条2項、207条3項)の罪で起訴された。1月12日、ロシア法務省は特別軍事作戦への批判と「ロシアのネガティヴなイメージ」を作り出していることを理由に、ボリス・アクーニンを外国エージェントに指定した。
1月7日
17:00.
ドンバスでの出来事を描いた『送られなかった手紙』がモスソヴェト劇場で上演される。
モスソヴェト劇場によるオレグ・ロイの同名の小説を原作としたヴャチェスラフ・マヌチャロフ演出『送られなかった手紙』の初演は、2023年8月20日に「ルジニキ」で行なわれたモスクワ・アーバニズム・フォーラムだった。現在、オリガ・カボとドミトリー・シェルビナが出演する同作は劇場のレパートリーに入り、〔劇場の〕「屋根裏舞台」で1月30日と2月23日に上演される。
劇場のSNSでは次のように述べられている。「2023年の私たちにとって最も重要な出来事は、オレグ・ロイの特別軍事作戦を初めて扱った作品を原作とする『送られなかった手紙』の初演をむかえたことでした。
この1年間、同作は、この作品がとりわけ必要とされるロシア各地でツアーを行なってきました。私たちはマグニトゴルスク、レニンスク=クズネツキー、プロコピエフスク、ノヴォシビルスク、チタ、ロストフ・ナ・ドヌーを訪れました……モスソヴィエトのメンバーたちは、病院などでも上演し、芝居で語られている内容を実体験として理解している観客たちと交流もしてきました。これはかけがえのない経験でした。私たちはまず第一に慈善目的として特別上演を計画していました。しかし、モスソヴェトの舞台ではいつ初演が行なわれるのかという問い合わせもいただいていました。お待ちいただいた皆様にお知らせできることを嬉しく思います!」。
『送られなかった手紙』に関する詳細はこちら。
1月3日
17:00.
ハリコフ・ドラマ劇場はウクライナ功労芸術家のヴィクトリヤ・チモシェンコが死去したことを発表した。劇場のSNSでは、同女優が1月2日のミサイル攻撃の際の負傷が原因で亡くなったと語られている。
また『ロシア新聞』紙は、さらに二人のウクライナ人俳優–アンドレイ・パヴレンコとヴァシリー・クハルスキー–の死を報じている。アンドレイ・パヴレンコはロシア国立舞台芸術大学(GITIS)の俳優学部で学んだ(ボリス・ユハナノフのクラス)。「アトリエ16」、「黒の正方形」などキエフの劇場に所属した。ロシアのテレビドラマでは『ムフタルの帰還』、『Cop Wars』などに出演。43歳だった。
ヴァシリー・クハルスキーはポドール地区キエフ・ドラマ劇場に所属。2011年に『どん底』のヴァシカ・ペペル役で「キエフ・ペクトラル」賞を受賞。42歳だった。
14:44.
1月12日から2月4日までニューヨークのブルックリン音楽アカデミー(BAM)でイーゴリ・ゴリャクの連作上演のタデウシュ・スロボドジャネク作の『同級生(Наш класс)』が初演を迎える。同作はMART基金と演劇カンパニーArlekin Players Theatreの共同制作。メナヘム役は元モスクワ芸術座俳優のアンドレイ・ブルコフスキー。彼にとって『同級生』はキャリア初のブロードウェイ作品となる。
「『同級生』は、1941年にポーランドの小さな町イェドヴァブネで起きたポグロムという実際の出来事に基づいています。そこでは1600人のユダヤ人が殺害されました」と演出家のイーゴリ・ゴリャクはMART基金の広報に語っている。「彼らは町の住民、つまり自分たちの隣人たちに殺されたのであり、以前語られていたようにナチストに殺されたわけではありません。これは、受け入れることが難しい真実についての作品です。悪というものが私たちの内側にあり、気付かぬまま隣り合っており、そして人間の本性の一部であるということについての作品なのです」。作品にはベルリンの劇場Schaubühneの舞台美術家ヤン・パッペリバウム(Jan Pappelbaum)、作曲家のアンナ・ドルビチ、映像作家のエリック・ダンラプ(Eric Dunlap)、衣装デザイナーのサーシャ・アゲエヴァ、振付家のオル・シュライバー(Or Schraiber)(Batsheva Dance Company)が参加している。
上演と並行して、制作チームはウクライナとイスラエルにおける軍事行動、反ユダヤ主義および亡命体験に関連した一連の教育イベントも準備している。
12月29日
13:00.
ヴォロネジ文化省は、解任されたミハイル・ブィチコフに代わるカーメルヌイ劇場の新芸術監督としてヴォロネジ国立芸術大学学長、地方社会評議会議長、コリツォフ記念ヴォロネジ・ドラマ劇場俳優のセルゲイ・カルポフを任命した。
12月27日
16:00.
イリダル・アブドラザコフがパリ・オペラ座とチューリッヒ歌劇場での出演を拒否される。また同歌手のページがウィーン国立歌劇場のサイトから削除された。この理由は、12月16日にモスクワの「ザリャヂエ」で開催されたプーチンをロシア大統領新任候補に推薦する有権者グループの集いにアブドラザコフが参加したため。参加者にはそのほかヴァレリー・ゲルギエフ、ニコライ・ツィスカリゼ、ヒブラ・ゲルズマヴァ、ユーリー・バシメトがいた。
チューリッヒでイリダル・アブドラザコフはロッシーニのオペラ『アルジェのイタリア女』の上演に出演する予定だった。パリでは、ダミアーノ・ミキエレット演出、ミハイル・タタルニコフ指揮によるマスネのオペラ『ドン・キホーテ』の初演に主演として出演するはずだった。アブドラザコフが『ドン・キホーテ』に出演しないことは、パリ・オペラ座のサイトで公表された。
12:00.
ロシア・アカデミー青年劇場(РАМТ)はボリス・アクーニン*の探偵小説に基づく『陰陽/黒』の近日中の上演を中止に。劇場オフィシャル・サイトとSNSで発表された。「親愛なる観客のみなさん! 1月3日に上演予定だった『陰陽/黒』は、『チェーホフ=ガラ』に変更となりました。チケットは有効です。変更に不都合がある場合は、購入場所で返金を承ります。ご迷惑をおかけして申し訳ありません!」
インターファクス通信は、ロシア・アカデミー青年劇場(РАМТ)のレパートリーに入っているアクーニンの書籍を原作とした三つの芝居はすべて近いうちに外されると報じている。インターファクスの記事では同劇場のコメントが次のように引かれている。「最近の作家の発言が社会的な反発を呼び起こしたため、劇場は『エラスト・ファンドーリン』、『陰陽/白』、『陰陽/黒』の上演の中止を決定した」。
これ以前も、ボリス・アクーニン*のテキストを原作とした作品の上演がモスクワ・グベルンスキー劇場とロシア・アカデミー青年劇場(РАМТ)(12月26日に予定されていた『エラスト・ファンドーリン』)で中止されていた。
*ロシア金融監視委員会のテロリスト・過激派リストにリストアップされている。
12月26日
20:00.
ロシア演劇人同盟の新体制での第一回会合評議会で、「ゴールデン・マスク」賞と同演劇祭の代表にヴラジミル・マシコフが、副代表にキリル・クロークが就任することが決定した。さらに、ロシア演劇人同盟のドネツク地方支部の創設に関して、「満場一致で決定」となった。
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